社長の「苦手」を全部投げる|山本智也『業務外注化の教科書』を年商3億円までの中小企業に翻訳する

経営改善

「人を増やしたいが、採用は重い。かといって自分一人で抱えるには手が回らない」。年商立ち上げから3億円規模の経営者から、いちばん多く受ける相談です。僕はこの相談を受けたとき、まず採用の前に1冊、必ず手渡す本があります。山本智也さんの『業務外注化の教科書』です。

原典で書かれているのは、社員1人で年商10億円超の組織を作り上げたという山本さんの実践論。クラウドソーシングで作業をベルトコンベア化し、専門人材を必要なときだけ呼び込む発想です。これを年商3億円までの中小企業オーナーに翻訳すると、「採用の前に外注で組織のかたちを試運転せよ」という処方箋になります。

外注は「人件費削減」ではなく「経営者の時間配分」の話

原典で山本さんが繰り返し述べているのは、外注の本質はコスト削減ではなく「業務スピード」と「専門性の確保」だという点です。雇用契約だと9時から18時の枠でしか動かせない社員に対し、外注ワーカーは時間も場所も自由に決められる。原典では「6時から14時、14時から22時、22時から6時」のワーカーを束ねれば24時間体制が組めると説明されています。

僕は社外CFOとして顧問先に入るとき、この話を「経営者の時間ROI」に置き換えて説明します。経営者の1時間が生む粗利は、現場作業の何倍も大きい。にもかかわらず、領収書の入力やバナー制作、議事録の書き起こしに経営者本人が時間を吸われている会社が驚くほど多い。外注の議論は「いくら浮くか」ではなく、「経営者の1時間を何に振り替えるか」から始めるべきです。

本で解くの哲学でいえば、原則1「やる気は必要条件」と地続きです。経営者がやりたいことに時間を投じられないまま、やる気だけで気合いを保つのは続かない。外注は、経営者の意志を実装するための装置です。

原典の核心:作業を「ベルトコンベア化」して分解する

原典で最も重要なフレーズが「業務のベルトコンベア化」です。山本さん自身、動画の撮影も編集もできないのに動画制作実績を積み上げてきた。その理由を、本文ではこう書いています。「プロジェクトごとに必要な作業を最小単位まで分解し、そこにそれぞれの専門スキルを備えた人材を配置する」。動画制作なら「シナリオ」「撮影」「編集」「ナレーション」に分け、各工程を別人に任せる。経営者の役割は「どんな動画を作るかを決める旗振り」だけになります。

中小企業の現場では、この分解が驚くほどできていません。「ホームページ更新」「経理処理」「営業資料作成」が、それぞれ社長か特定の社員一人に丸投げされたまま属人化している。外注以前に、まず工程を書き出すこと。これが第一歩です。

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CASE 1|社長の「苦手な経理・労務」を社員と外注で分業(不動産関連・代表+1名・年商5,000万未満)

不動産仲介で独立した34歳の経営者A社長。代表を入れて2名の体制で、年商は5,000万円弱。相談内容は「自分が経理と労務、契約書チェックまで全部やっていて、本来の物件仕入れと顧客対応の時間が取れない」というものでした。

僕がやったのは、まず1か月分の社長のタスクをすべて書き出してもらうこと。出てきた業務を「社長しかできない」「社員でできる」「外部でできる」の3列に分類すると、社長の時間の4割が「外部でできる」枠に入っていました。具体的には、領収書のスキャンと仕訳入力、物件写真の加工、賃貸サイトへの物件アップロード、SNS投稿の下書き。

原典のベルトコンベア化に倣い、領収書整理は税理士事務所のオプション契約へ、写真加工と物件アップロードはクラウドソーシングのワーカー1名に月3万円で固定発注、SNS下書きは別ワーカーに1投稿500円で。社員1名の採用は見送り、社長は週8時間を物件仕入れに振り替えました。3か月後、月の仕入れ件数は1.4倍に増えています。

外注の入口は「苦手で、かつ社外でも品質が落ちない作業」から。これが鉄則です。

CASE 2|キャッシュ改善後の人件費を、雇用ではなく外注で組み直した福祉施設(37歳2代目・借換1億円)

福祉施設を継いだ37歳の2代目B社長。父の代からの取引銀行で借換を進め、月60万円のキャッシュ改善に成功した直後の相談でした。当初、改善した60万円は「人を増やす原資」と考えていました。

僕はあえて「採用の前に外注で試してください」と提案しました。理由は2つ。1つは、福祉業界は採用に半年かかる前提で、その間に組み立てるべき業務フローが見えていなかったこと。もう1つは、原典が指摘するとおり、雇用は一度動かすと簡単に戻せないからです。

具体的には、求人広告の下書き、シフト表のひな型作成、補助金申請書類の下書き、保護者向けニュースレターのレイアウト、この4つを外注に切り出しました。月20万円ほどで回り、残った40万円はパート1名分の採用原資として温存。3か月運用して「やはり常駐が必要」と分かった業務だけを採用に切り替えています。

キャッシュが改善した直後ほど、採用を急ぎがちです。外注を「採用前のテスト運転」として使うと、何を社員に任せ、何を外に出すかの設計図が先に手に入ります。

ADVISORY|もし「社員が辞めたいと言い出した」相談が来たら

年商1億円前後でよく起こるのが、長年の社員から退職の相談を受けるケースです。原典には直接書かれていない領域ですが、僕はここでも外注の発想が効くと考えています。

退職相談を受けたとき、慌てて代わりの正社員を探すと、採用に3か月、戦力化に半年かかります。その間、社長が穴埋めに入り、本業が止まる。そうではなく、辞める社員が抱えていた業務を1週間かけて分解し、ベルトコンベア化できる工程を先に外注に切り出す。残った「社員にしか任せられない核」を見える化してから採用に動くと、求める人物像も明確になり、採用の精度が上がります。

もしこの相談が来たら、僕は最初の1か月を「業務分解と外注テスト」に充ててもらいます。退職は痛いイベントですが、組織のブラックボックスを開ける数少ない機会でもあります。

外注の落とし穴:丸投げと属人化、そして「経営者の本心」

原典で山本さんが何度も注意喚起しているのが、ワーカーの管理です。本文では「クラウドソーシングを使いこなすコツは、仕事を依頼して終わりでなく、ワーカーとの関係性を構築し、プロジェクトごとに常に適切な人材を割り振る環境を整えておくこと」と書かれています。

中小企業で外注がうまくいかない9割は、丸投げか属人化のどちらかです。ワーカーへの依頼内容が曖昧で品質がぶれる、あるいは特定のワーカーに依存しすぎて、その人が抜けると業務が止まる。原典が薦めるとおり、依頼単価・品質・対応速度をスプレッドシートで管理し、必ず2人以上のワーカーで同じ工程を回せる体制を作っておく。これが小さな会社が外注で事故を起こさないための保険です。

もう一つ、僕が顧問先で必ず確認しているのが、経営者本人の「本心」です。外注を進めるにあたって、社長が手放したくない仕事と、本当は早く手放したい仕事がある。前者は社長のアイデンティティに近く、無理に外注すると経営の手応えが薄れて、かえってモチベーションが下がります。後者は早く手放すほど社長の判断力が冴える業務です。

顧問先には「社長、この仕事を1年間やらなくてよくなったら、どんな気持ちですか」と必ず聞きます。「ホッとする」と即答した業務は外注の最有力候補。「寂しい気もする」と答えた業務は、社員に引き継ぐか、社長が引き続き持つかを慎重に検討する。本心の言語化を飛ばして外注設計を進めると、半年後に「やっぱり自分でやる」と巻き戻ることが珍しくありません。

外注はテクニックの話に見えて、実は経営者が「自分は何をやる人間でありたいか」を問う作業でもあります。原典のベルトコンベア化は工程の話ですが、その手前にある問いを飛ばさないでください。

明日の一手:30日で外注を「組織の一部」にする3ステップ

読み終えてすぐ動くための3ステップを置きます。

0〜30日:社長の時間を棚卸しする。1週間、自分のタスクを15分単位で記録し、「社長しかできない」「社員でできる」「外部でできる」の3列に分ける。外部でできる業務の中から、最も時間を奪っているもの3つを選ぶ。

30〜60日:1工程だけ外注に出す。選んだ3つのうち1つを、クラウドソーシングで月5万円以内、かつ2名以上のワーカーに同時依頼する形でテスト発注する。納品物の品質と納期、コミュニケーション負荷を記録する。

60〜90日:外注を「仕組み」に昇格させる。テストで合格した工程をマニュアル化し、依頼テンプレートを固定する。残り2つの業務にも横展開し、社長は浮いた時間を「自分にしかできない仕事」に投じる。ここで初めて、採用すべきポジションの輪郭が見えてきます。

外注は、経営者を孤独な作業から解放し、本来やりたかった意思決定に時間を戻すための装置です。原典の言葉で言えば、社長は「旗振り役」に専念していい。その第一歩を、ぜひ明日から踏み出してください。

典拠と著者プロフィール

典拠書籍:山本智也『副業で年収1億円!業務外注化の教科書』ピーパブリッシング。「業務のベルトコンベア化」「24時間体制で動かせるワーカー構成」「ワーカーのリスト化と関係性構築」など、本記事の論点はすべて原典PART 1〜PART 4に基づいています。

記事内CASE・ADVISORYについて:本記事に登場する事例は、筆者が中小企業診断士・社外CFOとして関与した複数の顧問先事例を、業種・年齢・規模を匿名加工して再構成したものです。数値は実例に基づく概算です。

著者プロフィール:枝元 宏隆(えだもと ひろたか)。中小企業診断士・社外CFO。年商立ち上げから3億円規模の中小企業オーナーを中心に、管理会計の導入と意思決定支援を行う。「経営者がやりたい仕事に時間を集中できる組織」を設計することを信条としている。

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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