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『コンサルタントの経営数字の教科書』(山口 揚平)
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「数字が苦手」では済まされない時代に経営者が直面している本当の問題
📝 えだもんの現場視点
支援先の建設業の社長が「売上は過去最高なのに手元にお金がない」と相談に来られたとき、試算表を確認すると粗利率が前年比で6ポイント下落していました。資材高騰に対して見積もりを据え置いていたのが原因でした。「数字を見ていなかったわけじゃないけど、何を見ればいいか分からなかった」——この言葉は、多くの経営者の本音だと思います。
「決算書は税理士に任せている。正直、何が書いてあるかよく分からない」
支援先の経営者に話を聞くと、驚くほど多くの方がこう口にします。売上は伸びている、現場は回っている、でも手元に残るお金が増えない。なぜなのかが数字で説明できない——そんな状態で経営判断を感覚だけで続けていると、ある日突然、資金繰りの壁にぶつかります。
私はこれまで九州を中心に100社以上の中小企業に伴走してきた中小企業診断士であり、伴走型CFOとして資金繰りや補助金の支援を行っています。その経験から断言できることがあります。経営で行き詰まる会社の多くは、「数字が読めない」のではなく「経営に使える数字を知らない」のです。
山口揚平氏の著書『コンサルタントの経営数字の教科書』は、まさにその盲点を突いた一冊です。複雑な会計知識を詰め込むのではなく、「コンサルタントが実際に経営判断で使う数字」を厳選して提示しています。数字嫌いの経営者こそ手に取ってほしい、実戦的な思考フレームを持つ本です。
「分かる」と「使える」は別物である
本書の冒頭で著者が強調するのは、「財務諸表を読める」ことと「経営の意思決定に数字を使える」ことはまったく別のスキルだという視点です。簿記の資格を持っていても経営判断が鈍い経営者がいる一方で、財務の専門知識がなくても数字を武器にして会社を成長させる経営者がいる。その差はどこから生まれるのか——本書はその答えを丁寧に解きほぐしていきます。
なぜ中小企業の経営者は数字から遠ざかるのか
著者は、多くの経営者が数字を嫌がる背景には「会計という言語の難しさ」よりも「どの数字を見ればいいか分からない」という情報過多の問題があると指摘します。損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書——三表をすべて完璧に読もうとするから挫折する。本書が示すのは「経営の現場で本当に使う数字だけ押さえればいい」というシンプルかつ力強いメッセージです。
コンサルタントが実際に見る「5つの重要数字」とは何か
本書の核心は、コンサルタントが経営診断の現場で真っ先に確認する数字を絞り込んでいる点にあります。著者の山口氏はM&A・事業再生の現場でキャリアを積んできた実務家であり、理論だけでなく「現場のリアル」が随所に反映されています。
売上より先に「粗利率」を見よ
本書が最初に強調するのは、売上高ではなく粗利(売上総利益)こそが経営の体力を示す数字だという考え方です。売上が増えても粗利率が低下していれば、会社は疲弊します。値引き競争に巻き込まれていないか、原価管理が適切か——粗利率の変化は、経営課題の「震源地」を教えてくれます。
私が支援している会社でも、「売上は前年比110%なのに利益が出ない」という相談を何度受けたか分かりません。確認してみると、粗利率が前年から5ポイント以上下がっていたというケースが珍しくない。この数字を毎月追うだけで、経営判断の精度は劇的に変わります。
キャッシュフローは「利益」より正直な数字である
本書では、利益とキャッシュ(現金)の違いを経営者が体感的に理解できるよう、丁寧に図解しながら説明されています。黒字倒産という言葉があるように、損益計算書で利益が出ていても、現金が手元にない状態では会社は動かせません。
著者はキャッシュフロー計算書の「営業キャッシュフロー」を最重要指標として位置づけます。本業でしっかりお金を稼げているかを見るこの数字は、会社の「地力」そのものです。補助金支援の現場でも、採択後の資金繰り計画を立てる際に私が必ず確認する数字がここにあります。
ROEとROAで「資本の使い方」を問い直す
中小企業の経営者にはあまりなじみがないかもしれませんが、本書はROE(自己資本利益率)とROA(総資産利益率)についても平易な言葉で解説しています。難しい話ではありません。「持っている資産や資本を、どれだけ効率よく利益に変えているか」を測る指標です。規模の大小に関わらず、この視点を持つだけで「今の投資は正しいか」を判断できるようになります。
KPIの設計——「見えない経営」から脱出する思考法
売上と利益だけを月次で追っている経営者は多い。しかしそれでは、問題が発生してから気づくことになります。本書が提唱するのは、「先行指標」としてのKPIを設計し、結果が出る前に手を打てる仕組みを作るという考え方です。
「結果指標」と「先行指標」を使い分ける
売上高や利益は「結果指標」です。これらは過去の行動の結果であり、数字が出た時点ではすでに手遅れになっていることもあります。本書では、コンサルタントが重視する先行指標——例えば、見込み客数、成約率、リピート率、顧客単価など——を業種ごとに設定する考え方を紹介しています。
先行指標が下がっていれば、来月の売上が落ちることを事前に予測できる。これが「数字で経営する」ということの本質です。感覚や経験だけで動く経営から脱するための、具体的な設計思想が本書には詰まっています。
KPIは少ないほど強い
本書で著者が繰り返し強調するのは、KPIは絞り込むほど機能するという点です。10個も20個も管理指標を並べると、どれが重要か分からなくなり、結局どれも動かせない。経営者が毎週確認すべきKPIは3〜5個に絞れというのが著者の主張であり、私自身も支援先にこの考え方を実践的に導入しています。
数字から「意思決定」へ——コンサルタントの思考プロセスを盗む
📝 えだもんの現場視点
100社以上を見てきて感じるのは、資金繰りで詰まる会社の経営者ほど「月次の数字を自分の言葉で説明できない」という共通点があることです。税理士から渡された試算表を眺めるだけで終わっている。本書が提示する「コンサル視点の数字の絞り方」を知ると、見るべきポイントが明確になり、経営判断のスピードと精度が一気に変わります。
本書の最大の価値は、数字の読み方だけでなく「数字から何を判断するか」というコンサルタントの思考プロセスを丁寧に開示している点です。財務データを前にして「で、どうする?」という問いに答えられる経営者を育てることが、本書の真の目的と言えます。
「ボトルネック」を数字で特定する
著者は、会社の問題点は必ずどこか一点に集約されると言います。コンサルタントはその「ボトルネック」を数字を使って論理的に特定します。売上が伸びない原因は集客か、成約率か、単価か、リピートか——それぞれの数字を分解していくと、本当の問題がどこにあるかが見えてくる。
本書はこのプロセスをケーススタディを交えながら説明しており、「自社に当てはめたらどうなるか」を考えながら読めるよう設計されています。コンサルタントに依頼しなくても、同じ視点で自社を分析できるようになるのが本書の強みです。
投資判断を数字でできるようになる
新しい設備を入れるべきか、人を採用すべきか、新規事業に参入すべきか——こうした意思決定は多くの経営者が「勘」や「熱量」で決めがちです。本書はこうした判断を数字に落とし込む方法——回収期間、投資対効果、損益分岐点の変化——をコンパクトに解説しています。数字が感情的な判断に「待った」をかけるブレーキになるという著者の言葉は、現場感覚と一致します。
えだもんが見た現場——数字を持つ経営者と持たない経営者の差
14年間で2,000冊以上のビジネス書を読み、100社以上の経営者に伴走してきた私が、本書を特に推薦する理由は「現場の実感と一致する」からです。理屈ではなく、実際に数字を武器にしている経営者がどう違うかを、私は間近で見てきました。
「月次の数字を自分で語れる」経営者は強い
支援先の経営者の中で、明らかに意思決定が速く、資金繰りで詰まりにくいのは「自分の言葉で月次数字を説明できる経営者」です。税理士の説明をそのまま鵜呑みにするのではなく、「粗利率が下がっているから来月は採用を一件見送る」「営業キャッシュフローが厳しいから補助金申請を急ぐ」と、数字と行動が直結している。本書はまさにそのスキルを身につけるための入門書です。
数字を持つと、専門家との会話が変わる
本書を読んで経営数字の基礎を押さえると、税理士や金融機関、コンサルタントとの対話の質が一変します。「先生にお任せ」から「この数字についてどう見ますか」という能動的な関与ができるようになる。これが会社の意思決定スピードを上げ、支援する専門家の力も最大限引き出すことにつながります。私の伴走支援でも、数字を理解している経営者との議論は圧倒的に深く、速く、そして楽しい。
この一冊を最大限に活かすために——読み方と実践のすすめ
📝 えだもんの現場視点
事業承継の支援をしていると、先代から会社を引き継いだ2代目経営者が「財務は経理に任せている」と言うケースが非常に多い。しかし銀行交渉や補助金申請の場面では、経営者自身が数字を語れるかどうかで、相手の信頼度がまったく変わります。本書を読んで数字の背景を語れるようになった経営者は、金融機関との関係が明らかに改善されていきます。
本書は通読しても良いですが、私がおすすめするのは「自社の直近3ヶ月の試算表を手元に置きながら読む」方法です。抽象的な解説がリアルな数字と結びついた瞬間、理解の深さがまったく変わります。
まず「粗利率」「営業CF」「KPI3つ」だけ押さえる
本書を読んで全部やろうとすると挫折します。最初の一歩として、粗利率・営業キャッシュフロー・自社のKPI3つだけを毎月確認する習慣をつけることを目標にしてください。それだけで、経営の「解像度」は大きく上がります。本書はその3つを正確に理解するための情報が揃っています。
数字を「共有する文化」を社内に作る
経営者一人が数字を理解するだけでなく、幹部や管理職と数字を共有する文化を作ることが、組織全体の意思決定力を高めます。本書で学んだ視点を社内勉強会や朝礼のネタとして使うのも効果的です。数字が「怖いもの」から「経営の地図」に変わると、チーム全体の動き方が変わります。
経営に「勘」は必要です。しかし勘を正しい方向に向けるためには、数字という羅針盤が不可欠です。『コンサルタントの経営数字の教科書』は、その羅針盤の使い方を、現場感覚を持つ著者が丁寧に教えてくれる一冊です。ぜひ手に取って、今日から「数字で考える経営者」への第一歩を踏み出してください。
明日の一手
本を読んで「なるほど」で終わらせないために、今日から動ける具体的なアクションを3ステップでお伝えします。小さな一歩が、数字で経営できる自分への確実な道になります。
- 直近の試算表(または確定申告書)を引っ張り出し、「売上総利益÷売上高」で粗利率を計算してください。それだけでOKです。その数字が業界平均と比べて高いか低いかをGoogle検索で調べるだけで、自社の立ち位置が見えてきます。
- 本書を読みながら、自社に当てはまる「先行指標KPI」を3つだけ書き出してみてください。例えば「新規問い合わせ件数」「成約率」「リピート率」など。それをエクセルや手書きのメモで毎週記録するだけで、「感覚経営」から「数字経営」への移行が始まります。
- 毎月の試算表が出たタイミングで、「粗利率・営業キャッシュフロー・KPI3つ」の5点を確認する「月次数字レビュー30分」を習慣化してください。税理士との面談前にこの作業を行うことで、「聞くだけ」から「議論する」面談に変わり、専門家の力を最大限引き出せるようになります。
この記事のまとめ(Q&A)
経営者が決算書を見ても分からないときは、何を見ればよいですか?
『コンサルタントの経営数字の教科書』は、三表をすべて読もうとせず、経営の現場で使う数字に絞ることを勧めています。最初の一歩は粗利率、営業キャッシュフロー、自社のKPI3つです。直近3ヶ月の試算表を手元に置き、この3点を毎月確認する習慣をつけます。見るべき数字が決まると、税理士との面談でも数字について質問できるようになります。
売上が伸びているのに手元にお金が残らないのはなぜですか?
原因の一つは粗利率の低下です。売上が増えても粗利率が下がっていれば、会社の体力は削られます。資材高騰に見積もりを反映できていない場合などがその例です。また、損益計算書で利益が出ていても現金が不足すれば会社は動かせないため、営業キャッシュフローで本業の稼ぐ力を確認することが大切です。
KPIを設計するには、どうすればよいですか?
売上や利益は過去の行動の結果である「結果指標」なので、見込み客数、成約率、リピート率、顧客単価といった「先行指標」を業種ごとに設定します。先行指標が下がれば、来月の売上の落ち込みを事前に予測できます。KPIは絞るほど機能するとされ、毎週確認する指標は3〜5個が目安です。まず自社に当てはまる先行指標を3つ書き出し、毎週記録するところから始めます。
この記事の根拠と執筆背景
執筆者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。
執筆・更新日
執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

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