月末の振込で2ヶ月連続ヒヤリ、その違和感が初期サイン
中小企業経営者の多くは、資金繰りの悪化に「急に」気づきます。実際は違います。2〜6ヶ月前から10個の兆候が少しずつ積み重なり、ある月末の振込で帳尻が合わなくなった瞬間に表面化するだけです。
僕が2024年秋に支援した福祉施設では、この兆候の積み重ねを放置した結果、返済額が減価償却費を上回るキャッシュ圧迫状態になっていました。そこから国の借換一本化制度を使い、1億弱を15年に引き直して月60万円のキャッシュを捻出した実録があります。早期発見できていれば、もっと楽な手段もあったはずです。
今日話したいのは、菅原由一さんの『激レア資金繰りテクニック50』を中小企業の現場で使い倒してきた立場から、資金繰り悪化の早期発見チェックリスト10項目と、手遅れ前に動くための判断軸です。本書の視点と僕の支援現場の実感を重ねて話します。
よくある勘違い:決算書が黒字なら大丈夫?
多くの経営者が最初に見るのは損益計算書(P/L)です。「黒字だから安心」と考える。ただ、本書が繰り返し強調するように、資金繰りは P/L ではなくキャッシュフロー表で見るのが鉄則です。
黒字でも倒産する会社は存在します。売掛金が回収できない、在庫が増える、設備投資で現金が出ていく——これらは P/L の利益には影響しないまま、手元のキャッシュを削ります。
僕が現場で見てきた「黒字倒産」の手前の会社は、例外なく次の兆候を抱えていました。
資金繰りが苦しい会社に共通する10の兆候
本書の知見と僕の支援現場の観察を重ねて、早期発見のチェックリストを10項目にまとめます。
① 月末の振込で毎月ヒヤリとしている
給与・家賃・借入返済が重なる月末、「今月は間に合うか」と経営者が毎月心配している状態。これが2ヶ月以上続いているなら、既に黄色信号です。
② 手元現金が月商の1ヶ月分を下回っている
本書は「固定費6ヶ月分の現金」を推奨しています。僕の支援先での最低ラインは「月商の1ヶ月分」。これを下回ると、売上が1週間止まっただけで支払い不能に陥ります。
③ 売掛金の平均回収サイト(期間)が延びている
昨年平均30日だった回収が今年45日になっている、等。取引先の資金繰りが悪化している兆候でもあり、自社のキャッシュも同時に圧迫されます。
④ 在庫回転率が下がっている
売れない在庫が積み上がるほど、現金は商品に変わったまま戻ってこない。月次で在庫金額を確認していない会社は、ここに危険が潜みます。
⑤ 設備借入の返済が減価償却費を上回っている
本書の核心ポイントのひとつ。返済額>減価償却費だと、帳簿上の利益は出ていても現金が毎月減っていきます。これが2年以上続くと、徐々にキャッシュが枯渇します。
⑥ 税金の納付を分割・延納で対応したことがある
一度でも税金を分割納付した経営者は、銀行の評価が下がります。これが翌年の融資可否に直撃する。
⑦ 社長の報酬を削って会社に残している
「今月は役員報酬を半分にしよう」を繰り返している会社は、既に綱渡り状態です。
⑧ 銀行の担当者から電話が来なくなった
本書が指摘する銀行員の行動原理として、成績の評価基準は明確。会社の業績が落ちると、担当者の訪問頻度が減ります。「いつもの担当者が来なくなった」は重要なシグナル。
⑨ 取引銀行が1行のみ
メインバンク1行頼みの会社は、その1行の方針変更で経営が揺らぎます。本書は「複数行取引」を強く推奨しています。
⑩ 資金繰り表を作ったことがない
これが最も本質的な兆候です。資金繰り表を作らずに経営している中小企業は、実は少なくない。本書の50のテクニックを使う以前に、現状を数値で把握する習慣がまだありません。
事例:福祉施設の37歳2代目社長が1億の借換で月60万円のキャッシュを捻出した話
具体事例を話します。僕が2024年秋から支援した福祉施設の話です。
コロナ前後を通じて意欲的に事業拡大にチャレンジしてきた会社でしたが、うまくいかない事業も多く、撤退した事業もありました。結果、借入の返済タイミングがバラバラの状態。さらに設備の借入期間が短く、返済額が減価償却費を上回る状態でした。上の⑤の兆候が明確に出ていた会社です。
37歳の2代目社長は相談時、「毎月の返済をなんとか回している状態」と話していました。2年近く遅れなく返済していたこと、事業そのものは黒字基調だったことが、この後の交渉の武器になります。
僕が提案したのは、本書の知見を踏まえた借換一本化です。国の借換一本化制度はあまり使われていない仕組みですが、条件が合えば強力な財務改善ツールになります。
計画策定と銀行員への説得の場に同席し、1億弱の借換を実現。15年の長期期間に引き直し、金利は若干上昇したものの、返済ペースが減価償却費同等水準に改善しました。
結果、手元のキャッシュフローが毎月60万円程度増加。浮いた資金は、人手不足がボトルネックだった事業体への雇用拡大に回し、現在は売上も伸びています。
本書の限界:全業種に同じテクニックは効かない
本書は菅原さんの税理士としての実務経験から生まれた優れた書籍ですが、中小企業の現場で試すと、ひとつ重要な限界が見えます。
それは、本書のテクニックの多くが「粗利率の高い業種」を前提にしていることです。サービス業・IT業のように粗利率40%以上の業種では効きやすいが、卸売業・建設業のように粗利率が20%前後の業種では、同じテクニックでも改善幅が限定的になることがあります。
実装するときは、自社の粗利率を踏まえて、50のテクニックのうちどれが自社の構造に効くかを見極める必要があります。本書の「借換」「固定資産の断捨離」「特別償却」などは業種問わず効きますが、「経費計上の最適化」などは業態依存度が高い。
今日から試せる3つのアクション
10の兆候と1件の事例を踏まえて、今日から試せる3つのアクションにまとめます。
1つ目、月商1ヶ月分の現金を確保する目標を立てる。まだ下回っているなら、そこまで戻す計画を立てる。すでに超えているなら、6ヶ月分を目指す。
2つ目、返済額と減価償却費の差を計算する。返済>減価償却なら、借換の検討余地あり。会計事務所に相談する。
3つ目、取引銀行を1行のみから2行以上に増やす。本書が強く推奨する複数行取引。メインバンク以外に1行、取引を始めるだけで経営の選択肢が広がります。
明日の一手:資金繰り表を1枚書き出す
ここまで読んでくれた経営者へ、具体的な一歩を提案します。
明日、15分だけ紙とペンで、次の3ヶ月分の「入金予定」と「支払予定」を月単位で書き出してください。これだけで簡易版の資金繰り表になります。
- 今月末の現金残高
- 3ヶ月後までに入ってくるお金(売上回収、既存契約)
- 3ヶ月後までに出ていくお金(給与、家賃、返済、税金)
この1枚を書くだけで、上の10兆候のうちどれに該当するかが見えてきます。本書の50のテクニックを試すのは、この1枚を書いた後で十分です。
この記事の根拠と執筆背景
主要な参考書籍
本記事は菅原由一 著『激レア資金繰りテクニック50』を主要な参考書籍としています。特に「借換一本化」「複数行取引」「減価償却と返済のバランス」の章を中心に引用しました。
引用した支援事例について
- 事例: 福祉施設における2024年秋〜現在の支援経験に基づきます。経営者は37歳・2代目。借換一本化で1億弱を15年引き直し、月60万円のキャッシュフロー改善を実現。社名・個人名は匿名化しています。
執筆日・最終更新日
執筆: 2026-04-20 / 最終更新: 2026-04-20
著者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士、複数法人経営者。九州中心に資金繰り改善・事業承継・組織改革の伴走支援を実施。

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