本書の回答:条件付きで「イエス」、ただし慎重に
投資に興味のある経営者からよく聞かれる質問のひとつが、「借金をしてでも投資すべきか」です。特に事業で借入経験がある経営者は、借金を活用して投資することにも心理的な抵抗が少ない。
ニック・マジューリさんの『JUST KEEP BUYING』は、この問いに対して条件付きで「イエス」を出しています。ただし、その条件がかなり厳密で、中小企業経営者の現実ではクリアしにくいケースもあります。
今日は、本書の回答を経営者の視点で検証し、どういう時に「イエス」でどういう時に「ノー」かを整理します。
本書が示す3つの条件
本書によれば、借金で投資するのが合理的になるのは、次の3条件が揃った時です。
条件1:借入金利 < 投資の期待リターン
当然ですが、借入金利より投資の期待リターンが高くないと、借金で投資する意味はありません。米国株式市場の長期平均リターンは年7-10%。これを下回る金利での借入なら、数学的には合理的。
条件2:返済が確実にできるキャッシュフローがある
相場が下落しても、返済が確実にできる別の収入源があること。これがないと、相場下落時に売却を強いられ、損失が確定します。
条件3:投資期間が10年以上
短期では株式は下落することがあるため、借金投資は10年以上のスパンで考える必要があります。5年以下のスパンで借金投資するのは、数学的にリスクリターンが悪化します。
中小企業経営者の現実での検証
これらの条件を、中小企業経営者の現実に当てはめるとどうなるか。3つのパターンで検証します。
パターンA:既に事業借入がある経営者
ほとんどの中小企業経営者は、既に事業のための借入を持っています。この借入の金利(通常1.5-3%)は、本書の条件1を満たします。
ただ、この借入を「投資に回す」のは、資金使途違反になります。事業のための借入は事業に使うのが契約上の義務。本書の原則は、事業借入を投資に流用する話ではない。
経営者が借金投資をする場合、個人名義での投資用ローンや、別途借入を起こす必要があります。
パターンB:会社が連帯保証している経営者
多くの中小企業経営者は、会社の借入について連帯保証をしています。この状態で、さらに個人が借金投資を重ねると、レバレッジが二重になります。
会社が倒産した場合、個人の連帯保証と個人借金の両方を背負う。これは本書の条件2(返済が確実にできる収入源)を壊す構造です。
僕が支援する経営者には、この二重レバレッジを避けることを強く推奨しています。
パターンC:無借金経営で個人資産もある経営者
会社が無借金、経営者個人にも十分な貯蓄がある場合、本書の3条件が揃う可能性があります。この層であれば、住宅ローン減税と投資の組み合わせなど、税制も活用した借金投資が合理的になることもあります。
ただし、この層は日本の中小企業経営者の中では少数派です。
事例:飲食店経営者が「借金投資」の選択肢を取らずに廃業した話
僕の地元の先輩経営者の話です。コロナ後に飲食店の撤退と廃業を決断した経営者で、2022年頃からの相談を伴走してきました。
この時期、「借金を増やしてでも投資で回収するか」という選択肢が議論に上がったことがあります。本書のパターンに当てはめると、条件2(返済キャッシュフローの確保)が明確に崩れていた。飲食店のキャッシュフロー自体が悪化していたので、借金投資は二重リスクになる構造。
僕は「借金投資ではなく、潔くリセットする選択肢」として自己破産を提案しました。実行までに約1年かかりましたが、結果として自己破産の手続きを進めながら、再建のための体力と準備を整える段階に入っています。
本書の条件を真剣に検討することが、時に「投資しない」という結論を導く大切さを、この事例で学びました。
本書の「借金投資」原則を中小企業経営者に翻訳
本書の理論を経営者の現実に翻訳すると、実用的な判断軸が見えてきます。
原則1:事業借入は投資に流用しない。資金使途違反のリスクを避ける。
原則2:連帯保証がある間は、個人の借金投資を避ける。二重レバレッジは中小企業経営者の身を滅ぼす最短ルート。
原則3:会社が安定して純利益率10%以上を継続しているなら、限定的な借金投資を検討可。住宅ローンと新NISAの組み合わせなど、税制を活用した範囲内で。
本書の数学的な合理性は正しいが、中小企業経営者の特殊事情を踏まえた翻訳が必要です。
明日の一手:自分の「借金投資」可否を判定する
ここまで読んでくれた経営者に、具体的な判定を提案します。
明日、次の5問に「はい/いいえ」で答えてください。
- 会社の借入について、個人で連帯保証していない
- 会社の当期純利益率は10%以上で、3期連続で黒字
- 個人の生活防衛資金は生活費2年分以上
- 投資期間を10年以上と設定できる
- 最悪のケース(株価50%下落)で精神的に耐えられる
5問全て「はい」なら、本書の原則をベースに借金投資の検討余地があります。1つでも「いいえ」があれば、まずそこを改善する方が優先度高い。
本書を読む前に、この5問を自分に問うてください。読後の判断が一気に現実的になります。
この記事の根拠と執筆背景
主要な参考書籍
本記事はニック・マジューリ 著『JUST KEEP BUYING』を主要な参考書籍としています。特に「レバレッジ投資の条件」「リスク管理」の章を中小企業経営者の視点から翻訳しました。
引用した支援事例について
- 事例: 飲食店経営者(カフェ+グランピング付きカフェ)における2022〜2026年の関与に基づきます。コロナ影響下での撤退・廃業判断の過程。社名・個人名は匿名化しています。
執筆日・最終更新日
執筆: 2026-04-20 / 最終更新: 2026-04-20
著者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士、複数法人経営者。九州中心に経営改善・撤退判断・資産形成の伴走支援を実施。

コメント