商品も業務も増えるばかりで利益が出ない——『ブルー・オーシャン戦略』に学ぶ低コストと高付加価値を両立する方法

経営改善

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『ブルー・オーシャン戦略』(W・チャン・キム)
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「サービスを増やしたのに、なぜか利益が出ない」「あれもこれもやっているのに、他社との差別化ができていない気がする」——そんな悩みを抱える中小企業経営者は、じつに多い。商品ラインナップを拡充し、スタッフを増員し、SNSにも手を出す。それなのに、手元に残るお金はいつも薄い。

その原因のひとつは、「競合と同じ土俵で戦い続けている」ことにある。値下げ合戦、機能の追加、広告費の投下——これらは全て、すでに他社がひしめく「血の海(レッド・オーシャン)」での消耗戦だ。

本書『ブルー・オーシャン戦略』が提示するのは、その真逆の発想だ。競争のない市場を自分でつくり出し、低コストと高付加価値を同時に実現する。経営戦略の世界的名著として知られるこの一冊は、規模の小さな中小企業や個人事業主にこそ、刺さる内容が詰まっている。

「競争に勝つ」発想を捨てると、何が変わるのか

📝 えだもんの現場視点

支援先の建設業の社長が、「仕事が多いのに手元に金が残らない」と相談に来た。話を聞くと、元請けから頼まれる仕事を断れず、採算の悪い工種も全部受けていた。ERRCグリッドで整理したところ、売上の8割は特定の工種2つから生まれていた。残りの工種を整理し、得意領域に集中したところ、半年後には利益率が5ポイント改善した。「やめる決断」が最大の経営改革だった。

レッド・オーシャンとブルー・オーシャンの本質的な違い

ビジネスの世界には、大きく分けて2種類の市場がある。レッド・オーシャン(既存市場)とブルー・オーシャン(未開拓市場)だ。

レッド・オーシャンとは、すでに競合が多く、同質化競争が激しい市場のこと。価格を下げれば他社も追随し、機能を増やせば他社もすぐ真似をする。競争すればするほど利益率は下がり、消耗戦になる。

一方、ブルー・オーシャンとは競争のない未開拓の市場空間のこと。既存の業界の枠にとらわれず、新たな需要を掘り起こすことで、競合のいない市場を自分でつくり出す。価格競争から解放され、高付加価値と低コストを同時に実現できる。

重要なのは、ブルー・オーシャンは「ゼロから革命的な新製品を発明する」ことではない、という点だ。多くの場合、既存ビジネスの「足し算・引き算」の組み合わせで生まれる。中小企業にとって、これは非常に実行可能な話である。

「価値とコストのトレードオフ」という呪縛を解く

経営の常識として「高付加価値を追求すればコストが上がる」「コストを下げれば価値も下がる」というトレードオフの考え方が根強い。しかし『ブルー・オーシャン戦略』は、このトレードオフこそが思い込みだと指摘する。

本書の核心は、「バリュー・イノベーション(価値革新)」という概念だ。顧客にとって本当に必要な価値を大幅に高めながら、不要な機能やコストを同時に削除する。この両立が、ブルー・オーシャンを生み出す原動力になる。

「付加価値を上げるにはコストがかかる」と信じ込んでいる経営者ほど、この発想の転換に大きな可能性を感じるはずだ。

ERRCグリッドとは何か——4つのアクションで事業を再設計する

ERRCグリッドの4要素

ブルー・オーシャン戦略の実践ツールとして最も有名なのが、ERRCグリッド(Four Actions Framework)だ。ERRCとは次の4つの問いの頭文字をとったものである。

  • Eliminate(取り除く):業界の常識として提供してきたが、顧客にとって実は不要な要素は何か?
  • Reduce(減らす):業界標準と比べて大幅に減らすべき要素は何か?
  • Raise(増やす):業界標準と比べて大幅に引き上げるべき要素は何か?
  • Create(創造する):業界がこれまで提供してこなかった、まったく新しい要素は何か?

この4つの問いを自社の事業に当てはめるだけで、「削れるコスト」と「伸ばすべき価値」が同時に可視化される。経営者が抱えがちな「全部大事」という思考の罠から、強制的に抜け出させてくれるフレームワークだ。

ERRCグリッドの実践例——シルク・ドゥ・ソレイユの事例

本書で最も有名な事例が、カナダのエンターテインメント企業「シルク・ドゥ・ソレイユ」だ。彼らは衰退しつつあったサーカス業界の中で、まったく異なる市場を創出した。

ERRCで整理すると、次のようになる。

  • 取り除いた要素:動物ショー、スター曲芸師のキャスティング(コスト削減)
  • 減らした要素:スリルや危険の演出
  • 増やした要素:会場の快適さ、ユニークな演目の多様性
  • 創造した要素:テーマ性のある物語、洗練された芸術性、ブロードウェイ的な演出

従来のサーカスファン(主に子ども)を対象にするのをやめ、大人の観劇客という新しい顧客層をターゲットにした。その結果、チケット単価はサーカスの常識を大幅に超えながらも、コストは劇的に下がった。まさにバリュー・イノベーションの具現化だ。

中小企業こそERRCが効く理由

大企業は既存事業を守るしがらみが大きく、抜本的な事業再設計に踏み切れないことが多い。一方、中小企業や個人事業主は意思決定が速く、組織が小さい分だけ変化への対応も柔軟だ。ERRCグリッドのような「削って・伸ばす」再設計は、むしろ中小企業に向いている。

大切なのは「全部やる」をやめて、本当に顧客価値につながる要素だけに経営資源を集中させること。これが、規模で劣る中小企業が競合と戦わずに利益を出す、最も現実的なアプローチだ。

「戦略キャンバス」で自社の立ち位置を可視化する

戦略キャンバスの描き方

ERRCグリッドと並ぶ本書のもう一つの重要ツールが「戦略キャンバス」だ。横軸に業界の競争要素(価格、品質、スピード、サポート体制など)を並べ、縦軸に各要素の提供レベルを高低で表すグラフである。

自社と競合他社の戦略キャンバスを同じグラフに重ねて描くと、競合と自社がほぼ同じ形になっている要素(同質化している箇所)が一目でわかる。そこがまさに、レッド・オーシャンで戦っている証拠だ。

ブルー・オーシャン戦略の目指すべき姿は、競合とは明らかに異なる形のグラフを描くこと。顧客にとって価値のある要素では突出し、他社が重視している要素でも自社には不要なものは思い切って削る。この「メリハリ」こそが、差別化と低コスト化を同時に実現する。

「非顧客」を掘り起こす発想

本書のもう一つの重要な視点が「非顧客の発見」だ。既存顧客への深耕だけでなく、「今は自社の顧客でない人たちがなぜ買わないのか」を問うことで、新たな市場の入口が見えてくる。

非顧客は3層に分類される。「まもなく離れる顧客」「あえて選ばない顧客」「まったく未接触の顧客」だ。この3層を意識して顧客行動を観察すると、今まで見えていなかったニーズが浮かび上がる。それが新しいブルー・オーシャンの種になる。

自社の商品を「なぜ買わないのか」をヒアリングするだけで、事業再設計のヒントが転がっていることは珍しくない。

えだもんが現場で見てきた「忙しいのに儲からない」の正体

📝 えだもんの現場視点

100社以上を見てきて感じるのは、「強みを言語化できている経営者ほど、資金調達が早い」という事実だ。補助金申請の現場でも、事業の核がシンプルで明確な計画書は採択率が高い。逆に「あれもできます、これもやります」と詰め込んだ計画ほど審査員に刺さらない。ブルー・オーシャン戦略でいう「戦略の明確性」は、事業計画書の説得力に直結する。強みの集中は、見せ方の強化でもある。

「やること」を増やすほど経営は苦しくなる

中小企業診断士として100社以上の経営者に伴走してきた中で、最もよく目にするパターンがある。それは、「やることを増やすことで安心しようとする経営者」の姿だ。

新しいサービスを追加し、既存サービスの種類も維持し、スタッフも増やす。一見、前向きな経営に見えるが、じつは全てが「薄く・広く」になっているケースが多い。顧客にとっての価値は分散し、コストは増え、スタッフの負荷も上がる。利益率は下がり、キャッシュが残らない構造になる。

ERRCグリッドをこういった経営者と一緒に使うと、「これ、実はいらなかった」と気づく瞬間が必ずある。取り除く(Eliminate)の問いに向き合うだけで、コスト構造が大きく変わることも珍しくない。

「強みの集中」こそ中小企業の生存戦略

資金も人材も限られた中小企業が、大手と同じ土俵で戦うのは得策ではない。にもかかわらず、「大手がやっているから自分もやらなければ」と無理に追随しようとする経営者が後を絶たない。

ブルー・オーシャン戦略の本質は、「競合を気にするのをやめ、顧客を気にすること」にある。競合が提供している要素を全部追いかけるのではなく、自社が本当に強みを持てる領域に絞り込み、そこで突出した価値を生み出す。

これは補助金支援や事業計画策定の現場でも同じだ。「何でも書いてある事業計画」より「一点突破の強みが明確な事業計画」の方が、審査員にも金融機関にも刺さる。経営の核がシンプルであることは、資金調達の面でも有利に働く。

法人化・事業承継の局面でもERRCは使える

ERRCグリッドは、日常の事業改善だけでなく、法人化や事業承継といった経営の節目でも強力なツールになる。たとえば個人事業主が法人化するタイミングは、事業を棚卸しする絶好の機会だ。「今やっていること全部を法人に引き継ぐ」のではなく、ERRCで整理して「法人でやること」「やめること」「強化すること」を決める。

事業承継でも同様だ。先代がやってきた事業をそのまま引き継ぐのではなく、後継者の強みとERRCを組み合わせて事業を再設計する。これにより、承継後の収益性が大きく変わるケースを現場で何度も見てきた。

明日から使えるERRCグリッド実践ステップ

まず「取り除く」から始める理由

ERRCグリッドを実際に使う際、最初に取り組むべきは「Eliminate(取り除く)」だ。新しいことを足す前に、今やっていることを見直す。削れるものを削ることで、コストが下がり、スタッフの負荷も軽くなり、残った要素に経営資源が集中できる環境が整う。

よくある「取り除く候補」は、以下のようなものだ。

  • 業界の慣習として続けているが、顧客から評価されていないサービス
  • 売上構成比が低いにもかかわらず、対応コストが高い商品ライン
  • 競合にも自社にも特段の強みがない、横並びのサービス要素

最初は「削るのが怖い」と感じる経営者も多い。しかし「これをやめたら売上が落ちるか?」を顧客視点で冷静に考えると、意外と「なくても困らない」ものが見えてくる。

ERRCグリッドを紙一枚で書いてみる

難しく考える必要はない。A4用紙を4等分して、それぞれのマスに「取り除く」「減らす」「増やす」「創造する」と書き、自社の事業要素を書き出していく。これだけでも、今の事業の課題が構造として見えてくる。

可能であれば、スタッフや信頼できる取引先と一緒に書くとなおよい。外からの視点が加わることで、「自分では当たり前だと思っていたことが実は顧客には不要だった」という気づきが生まれやすい。

まとめ——競争しない選択が、中小企業を救う

📝 えだもんの現場視点

事業承継の支援で、2代目経営者とERRCグリッドに取り組んだことがある。先代が30年続けてきた事業の棚卸しをすると、「慣習でやっているだけ」の業務が全体の約3割あった。2代目はそれらを思い切って整理し、自分の強みである顧客折衝力を生かした法人営業に特化した。承継から1年で新規法人契約が倍増。「引き継ぐ」ではなく「再設計する」という視点が、事業承継を成功に導くカギだと実感した。

『ブルー・オーシャン戦略』が伝えるのは、「競合に勝つ」ことではなく、「競合と戦わない市場を自分でつくる」という発想の転換だ。

ERRCグリッドと戦略キャンバスは、その発想を実行レベルに落とし込むための具体的なツールである。大企業のための理論ではなく、むしろ意思決定が速く、身軽に動ける中小企業・個人事業主にこそ効果的なフレームワークだ。

商品や業務を増やすことで成長しようとしてきた経営者ほど、一度「削る」視点から事業を見直す価値がある。そこに、利益が生まれる構造への道がある。

本書は戦略論の教科書として有名だが、難解な経営理論書ではない。具体的な事例と実践ツールが豊富で、読み終えた翌日から動けるヒントが詰まっている。忙しい経営者にも読みやすい構成になっているので、ぜひ手に取ってほしい一冊だ。

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明日の一手

理論を知るだけでは、経営は変わらない。今日から一つだけ動いてみることが、ブルー・オーシャンへの第一歩だ。

  1. 今日、自社のサービス・商品リストを紙に書き出し、「正直なくても顧客は困らないもの」に丸をつけてみる。Eliminate(取り除く)候補を3つ見つけることだけを目標にする。
  2. A4用紙を4等分してERRCグリッドを手書きで作成し、自社事業の要素を各マスに振り分ける。できれば信頼できるスタッフか取引先1名に見せて、「これ本当に必要?」と聞いてみる。
  3. 戦略キャンバスを描き、主要競合2社と自社を同じグラフに重ねて比較する。「競合と同じ形になっている要素」を洗い出し、そこへの投資を減らして差別化要素に再配分する経営方針を1枚にまとめる習慣をつける。

この記事のまとめ(Q&A)

ブルー・オーシャン戦略とは?

競合がひしめく既存市場(レッド・オーシャン)から抜け出し、競争のない新しい市場空間を自ら創り出す経営戦略のこと。『ブルー・オーシャン戦略』では、低コストと高付加価値を同時に実現する「バリュー・イノベーション」がその核心として紹介されている。大企業だけでなく、意思決定が速い中小企業や個人事業主にこそ効果的なアプローチだ。

ERRCグリッドを使うにはどうすればいい?

A4用紙を4等分し、「取り除く・減らす・増やす・創造する」の4マスに自社のサービスや業務要素を書き出すだけで始められる。最初は「取り除く(Eliminate)」から着手すると、コスト削減と経営資源の集中が同時に進む。スタッフや取引先と一緒に作成すると、顧客視点の気づきが得られやすい。

商品を増やしても利益が出ないのはなぜ?

競合と同じ要素を追いかけ続ける「同質化競争」に陥っているケースが多い。提供するサービスが増えるほど経営資源が分散し、顧客にとっての際立った価値が薄まってコスト負担だけが重くなる。『ブルー・オーシャン戦略』が示すように、「削る・絞る」判断こそが、利益の出る事業構造をつくる出発点になる。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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