会議で誰も意見を言わない——『新 問いかけの作法』に学ぶチームの本音と思考を引き出す技術

経営改善

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『新 問いかけの作法』(安斎 勇樹)
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「何か意見はある?」と聞いても、シーンと静まり返る会議室。「どう思う?」と水を向けても「社長にお任せします」という答えが返ってくるだけ。指示を出せばそのまま動くが、自分から工夫したり本音を話したりする様子はない——。

この状況に心当たりがある経営者は、少なくないはずです。私もこれまで100社以上の中小企業を支援してきましたが、「うちのメンバーは受け身で困っている」という悩みは、業種を問わず非常によく耳にします。

では、その原因はメンバーの「やる気」や「能力」にあるのでしょうか。私の答えは「ほとんどの場合、違う」です。問題は問いかけ方にあります。

今回紹介する『新 問いかけの作法』(安斎勇樹著)は、まさにその核心を突く一冊です。チームファシリテーション研究の第一人者である安斎氏が、「どんな問いを立てるか」によって、人の思考・感情・行動がどう変わるかを体系的に解説しています。経営者やリーダーが日常的に使う「問いかけ」を少し変えるだけで、チームのアウトプットは劇的に変わる。この本はそのことを、理論と実践の両面から教えてくれます。

なぜ「何か意見ある?」という問いかけは機能しないのか

📝 えだもんの現場視点

支援先の製造業の社長が「うちのスタッフは言われたことしかやらない」と嘆いていました。会議の録音を聞かせてもらったところ、原因はすぐわかりました。社長が「どう思う?」と聞くたびに、すでに自分の答えを持ったトーンで話していたんです。スタッフは「社長の正解を当てるゲーム」をやらされていた。問いを変えたら、翌週の会議から発言量が3倍になりました。

「答えやすい問い」と「思考を促す問い」は別物

本書の冒頭で安斎氏は、問いかけには大きく2種類があると指摘しています。ひとつは「答えを引き出す問い」、もうひとつは「思考を引き出す問い」です。

「何か意見ある?」「どう思う?」という問いは、一見オープンに見えます。しかし実際には、聞かれた側に「正解を当てなければならない」というプレッシャーを与えています。社長が期待している答えが何かわからない状況で、「外れたら恥ずかしい」「批判されるかもしれない」という不安が先に立ち、結果として沈黙になる。これは能力や意欲の問題ではなく、問いの設計の問題です。

「閉じた問い」と「開いた問い」の使い分け

本書では、問いを「クローズド(閉じた問い)」と「オープン(開いた問い)」に分類し、それぞれの効果と使いどころを丁寧に解説しています。

  • クローズドクエスチョン:「この案に賛成ですか?」のように、Yes/Noや選択肢から選ぶ形式。素早く確認したいときに有効だが、思考の広がりは生まれにくい。
  • オープンクエスチョン:「この案のどんな点が気になる?」のように、自由に答えられる形式。思考を広げ、多様な視点を引き出すのに有効。

多くのリーダーが「オープンに聞いているつもり」でいながら、実は暗黙の正解を前提にした問いを立てています。本書はその「ズレ」を気づかせてくれます。

問いが「心理的安全性」をつくる

安斎氏は、良い問いかけそのものが心理的安全性をつくり出すと言います。「正解がない問い」「自分の経験や感覚から答えられる問い」は、メンバーが「自分の意見を言っていい」と感じる場をつくります。逆に言えば、心理的安全性が低い会議室の多くは、問いかけのデザインが失敗しているサインでもあります。

「問いかけの質」がチームのアウトプットを決める

思考の質は問いの質に比例する

本書の核心的なメッセージのひとつが、「アウトプットの質は、インプットとなる問いの質によって決まる」というものです。どれだけ優秀なメンバーがいても、問いが浅ければ答えも浅い。逆に、問いが鋭ければ、普通のメンバーでも驚くほど深い思考が引き出される。

これは経営者にとって非常に重要な視点です。「うちのスタッフは考えてくれない」と感じているとき、その原因が自分の問いかけ方にある可能性を、本書はデータと事例を交えて示してくれます。

「Why」より「How」より「What if」が思考を動かす

安斎氏が特に注目するのが、「What if(もし〜だったら)」型の問いです。「なぜできないのか(Why)」は防御反応を引き出しやすく、「どうすればできるか(How)」は解決策の探索に向くが範囲が広すぎることがある。一方、「もし予算が10倍あったら、何をする?」「もしライバル社がこの問題に取り組んだら、どうするだろう?」といった仮説型の問いは、思考の枠を外し、アイデアの質を一段引き上げます。

この「What if型問いかけ」は、中小企業の現場でも即日使える実践的なツールです。

経営者が陥りがちな「問いかけの3つの罠」

罠①:答えを誘導する問い

「この方針でいくべきだと思わない?」——これは問いかけに見えて、実は社長が結論を持っていることをメンバーに伝えているだけです。本書はこれを「レトリカルクエスチョン(修辞疑問)」と呼び、チームの思考を止める最悪のパターンのひとつとして紹介しています。

経営者は往々にして、自分の考えに対する「同意」を求める問いを、「意見を聞く場」だと錯覚しています。これが長期化すると、メンバーは「どうせ社長の答えがある」と学習し、考えることをやめます。

罠②:一度に複数を問いかける

「この件どう思う?改善策はある?コストはどうする?」と矢継ぎ早に問いかけると、聞かれた側はどれに答えればいいかわからなくなります。問いは一度に一つが鉄則です。本書では、問いを絞り込むことの重要性を繰り返し強調しています。

罠③:「結論を急ぐ」問い

「で、結局どうするの?」という問いは、思考の途中にいるメンバーを強制終了させます。安斎氏は、思考のプロセスに伴走する問いの重要性を説いています。「今どんなことが気になっている?」「どのあたりで迷っている?」という問いは、メンバーの思考を可視化し、一緒に考える対話を生み出します。

「問いのデザイン」を経営に取り入れる実践ステップ

📝 えだもんの現場視点

100社以上を見てきて気づいたのは、「うちは風通しが悪い」と言う会社の多くが、実は社長の問いかけが原因だということです。特に多いのが「〇〇すべきだと思わない?」という誘導型の問い。これを繰り返すと、スタッフは「反論すると面倒なことになる」と学習します。問いを「どんなリスクがあると思う?」に変えるだけで、会議の質が別物になった現場を何度も見てきました。

ステップ1:会議の前に「問いを設計する」習慣をつくる

本書が提唱する最も根本的な実践は、会議や1on1の前に「どんな問いを立てるか」を事前に考えることです。多くの経営者は、アジェンダ(議題)は考えても、「どんな問いを投げかけるか」までは考えません。

たとえば、新規事業を議論する会議なら、「この事業をやるべきか?」という問いより、「この事業が成功したとき、誰がどんな喜びを感じているか?」という問いのほうが、メンバーのイメージと感情を動かします。問いのデザインは、会議の質を根本から変えます。

ステップ2:「経験から話せる問い」を使う

メンバーが答えやすい問いの条件のひとつが、自分の経験や感覚から答えられることです。「市場トレンドをどう見る?」という問いは、情報量や知識量による格差が生じます。一方、「自分がお客さんだったら、このサービスのどこに不満を感じると思う?」という問いは、誰でも自分の経験から語れます。

現場に近いスタッフほど、こうした「経験ベースの問い」に豊かな回答を返してくれます。それが新しい改善アイデアや顧客理解につながっていきます。

ステップ3:「沈黙を待つ」技術を身につける

本書は、問いかけた後の「沈黙」を恐れないことの重要性も説いています。問いかけてから答えが返ってくるまでの間、多くのリーダーは耐えられずに自分で答えを言ってしまいます。これが「どうせ社長が答える」という学習を強化する原因です。

安斎氏は、問いかけた後は最低でも5〜7秒待つことを推奨しています。この「待つ」という行為自体が、「あなたの考えを聞きたい」というメッセージをメンバーに伝えます。

えだもんが100社の支援現場で実感した「問いの力」

「社長が変わると、会議が変わる」という現実

私が支援してきた中小企業の中で、最も劇的な変化が起きた瞬間のひとつは、社長が「問いかけ方」を変えたときです。ある製造業の社長は、毎回の会議で「どうすればいいと思う?」と漠然と聞いていましたが、私のアドバイスで「もし自分が現場リーダーだったら、今一番変えたいことは何?」という問いに変えてみました。すると、それまで黙っていたベテランの現場スタッフが堰を切ったように話し始め、会議の雰囲気が一変しました。

問いが変わると、場が変わる。場が変わると、人が変わる。この連鎖を、私は何度も現場で目の当たりにしてきました。

補助金申請でも「問いの設計」は使える

実は「問いかけの作法」は、経営者との対話だけでなく、補助金申請のヒアリングや事業計画書の作成にも応用できます。「この事業で何をしたいですか?」という問いより、「5年後、この事業が地域でどう語られていてほしいですか?」という問いのほうが、経営者の本質的なビジョンを引き出せます。経営支援の現場でも、問いの質が支援の質を決めると実感しています。

この一冊があなたの「経営スタイル」を変える理由

📝 えだもんの現場視点

補助金申請のヒアリングで私が最も大切にしているのが「問いの設計」です。「この事業で何をしたいですか?」では、経営者は当たり障りのないことを話します。でも「10年後、この事業が地域でどう語られていてほしいですか?」と聞くと、目が輝いて本音が出てきます。その言葉が、事業計画書の核心になります。良い問いは、支援の質そのものを決めると実感しています。

「指示する経営」から「問いかける経営」へのシフト

中小企業の経営者は、プレイングマネージャーとして日々忙しく動いています。その中で「どうすればメンバーが自発的に動くか」という悩みは、経営の本質的なテーマのひとつです。

本書が示す答えは、「正しい指示を出すこと」でも「モチベーション管理をすること」でもなく、「良い問いを立てること」です。人は、良い問いに出会ったとき、自分から考え始める。そしてその答えは、指示されたものより深く、当事者意識を持ったものになる。

「問いかける経営」は、経営者の仕事を減らし、チームの力を最大化する。その意味で、本書は単なるコミュニケーション本ではなく、経営者のマネジメント哲学を更新する一冊です。

読んだ翌日から使える実践性の高さ

本書の優れた点は、理論だけでなく、明日から使える具体的な問いの例が豊富に収録されていることです。「会議の冒頭で使える問い」「1on1で使える問い」「アイデア出しに使える問い」など、シーン別に整理されており、読んですぐに実践に移せます。

ビジネス書を読んでも「なんとなく良かった」で終わりがちな方にこそ、この本の具体性は刺さるはずです。

14年で2,000冊以上のビジネス書を読んできた私が断言します。「問いかけ方」を学ぶなら、まずこの一冊を手に取ってください。チームとの関係、会議の質、そして経営者としての自分のあり方が、必ず変わります。

明日の一手

「問いかけを変える」と決めたなら、今日から小さく始めましょう。難しく考えず、まず一つの問いを変えてみることが、チームを動かす最初の一歩です。

  1. 今日の会議や1on1で、「どう思う?」という問いを使いそうになったら、一度立ち止めてください。代わりに「自分がお客さんだったら、この件でどこが気になると思う?」と聞いてみましょう。問いを一つ変えるだけでいい。今日のうちに一回試してみてください。
  2. 今週中に、会議や打ち合わせの前に「今日投げかける問いを3つ書き出す」という準備をしてみてください。アジェンダとは別に、「どんな問いを立てるか」を事前にメモする習慣です。準備した問いと、そこから出てきた発言の質を比べてみてください。問いを設計することの効果を、肌で感じられるはずです。
  3. 1ヶ月後を目標に、「問いかけノート」をつけてみてください。毎週の会議や1on1で「使った問い」と「引き出せた発言の質」をメモし、振り返る習慣です。どんな問いが場を動かしたか、どんな問いが沈黙を生んだか。自分のパターンが見えてくると、経営者としての問いかけの精度が格段に上がります。

この記事のまとめ(Q&A)

会議で部下が意見を言わないのはなぜ?

「何か意見ある?」「どう思う?」という問いは、一見オープンに見えても、聞かれた側に「正解を当てなければならない」というプレッシャーを与えます。社長が期待する答えがわからないと、外れたときの恥ずかしさや批判への不安が先に立ち、沈黙になります。『新 問いかけの作法』は、これを能力や意欲の問題ではなく問いの設計の問題として捉えています。問いの立て方を変えることが、最初の対策になります。

経営者が陥りやすい問いかけの罠とは?

本書で挙げられている罠は3つです。1つ目は「この方針でいくべきだと思わない?」のように結論へ誘導する問い、2つ目は一度に複数のことを問いかけること、3つ目は「で、結局どうするの?」と結論を急ぐ問いです。誘導する問いはメンバーに「どうせ社長の答えがある」と学習させ、複数の問いは何に答えればよいかわからなくさせます。結論を急ぐ問いは、思考の途中にいる人の考えを止めてしまいます。

メンバーの本音や思考を引き出す問いかけをするには?

まず会議や1on1の前に、どんな問いを投げかけるかを事前に設計します。次に「自分がお客さんだったら、どこが気になる?」のように、自分の経験から答えられる問いを使います。「もし予算が10倍あったら、何をする?」といった「もし〜だったら」型の問いも、思考の枠を外すのに有効です。問いかけた後は最低でも5〜7秒待ち、自分で答えを言わないことも大切です。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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