📖 この記事で紹介する書籍
『起業は意志が10割』(守屋 実)
Amazonで見る →
「いつか起業したい。でも、まとまった資金がない。だから、もう少し貯まってから——」
こういう言葉を、私はこれまで何十回と聞いてきました。九州を中心に100社以上の経営者に伴走してきた中で、「資金がないから踏み出せない」という壁は、起業志望者が最初につまずく最大の関門の一つです。
しかし、本当に問題は「お金がないこと」なのでしょうか。
今回紹介する『起業は意志が10割』(守屋 実 著)は、その問いに真正面から答えてくれる一冊です。著者の守屋実氏は、ミスミやジャフコを経て30社以上の起業・事業創造に関わってきた日本屈指の起業家・新規事業家。その守屋氏が断言するのは、「起業を決定づけるのは、資金でも経験でもなく、意志だ」という一点です。
資金ゼロでも起業できる。その根拠と具体的な方法を、この記事でしっかり紐解いていきます。
なぜ「資金がない」は起業できない理由にならないのか
📝 えだもんの現場視点
支援先の福祉事業の社長が最初に相談に来たとき、手元資金はほぼゼロでした。それでも「この地域にどうしても必要なサービスがある」という確信が言葉の端々から伝わってきた。私は「まず動きましょう」と背中を押し、最小限の形でサービスを開始。半年後には実績が信用になり、融資も補助金も後からついてきました。意志が先にある人は、資金調達の交渉でも強い。
「起業=大きな資本が必要」という思い込みを壊す
多くの人が「起業」と聞いたとき、まず事務所を借りて、設備を整えて、社員を雇って……という絵を描きます。確かにそういう起業もありますが、それは「起業の一形態」に過ぎません。
守屋氏が本書で繰り返し説くのは、「起業はゼロから価値を生み出す行為であり、最初に必要なのはお金ではなく問いを立てる力と動く意志だ」という考え方です。実際、著者自身が関わってきた多くの起業事例も、潤沢な初期資金からスタートしたものではありませんでした。
資金は、事業が動き始めてから調達すればいい。最初の一歩は、手元のリソースと「やる」という意志だけで十分なのです。
「意志」が資本になるメカニズム
本書の核心は、意志がいかにして「信用」と「仲間」と「機会」を引き寄せるか、そのメカニズムを明快に示している点にあります。
強い意志を持って動き始めると、人は自然と「この人は本気だ」と感じます。その本気さが信用を生み、協力者を呼び込み、資金やノウハウが後からついてくる——守屋氏はこの流れを、数十社の実例をもとに丁寧に解説しています。
つまり、資金は「起業の条件」ではなく「起業の結果としてついてくるもの」だという逆転の発想が、本書の出発点です。
守屋実氏が語る「起業家の意志」とは何か
意志とは「なんとなくやりたい」ではない
本書で守屋氏が定義する「意志」は、漠然とした「やってみたい気持ち」とは明確に区別されています。意志とは、「なぜ自分がやるのか」「誰のどんな課題を解くのか」「それをやり続ける覚悟があるか」という問いへの答えを持っていることだと説かれています。
この定義は非常に実践的です。「やりたい」で止まっている段階では、困難に直面したときに簡単に折れてしまう。しかし「なぜ自分がやるのか」という根拠が明確であれば、壁にぶつかるたびに立ち戻れる軸になります。
「課題から始める」起業の設計図
守屋氏が本書で提唱するのは、「やりたいこと起点」ではなく「課題起点」の起業アプローチです。
具体的には以下のような思考プロセスが紹介されています。
- 自分の身近にある「誰かが困っていること」を見つける
- その課題が解決されていない理由を深掘りする
- 自分だからこそ解ける理由(強み・経験・人脈)と照合する
- 最小単位でその解決策を試してみる
この設計図の優れた点は、資金ゼロでも今日からできるという点です。課題を見つけ、仮説を立て、小さく試す——このサイクルは、お金がなくても回せます。
「本気度」を可視化する行動リスト
本書では、自分の意志の本気度を確かめるための具体的な行動チェックも紹介されています。たとえば、
- その課題について、誰かに30分語れるか
- 解決策の仮説を紙1枚に書けるか
- 今すぐ「やる」と宣言できる相手が1人いるか
これらのチェックは、起業準備の「気分」になっているだけなのか、本当に動こうとしているのかを鮮明に映し出します。私自身もこのリストを読んで、「宣言する相手を作ること」の重要性を改めて実感しました。
資金ゼロでも起業できる「身の丈スタート」の実践論
最小単位で始める「プロトタイプ起業」
本書が特に印象的なのは、「まず完成形を作ろうとするな」というメッセージです。守屋氏は、起業初期に必要なのはビジネスモデルの完成ではなく、「最小限の形で価値を届けてみること」だと言います。
たとえば、飲食店を開きたいなら、まず週末のマルシェに出店してみる。コンサルタントとして独立したいなら、まず知人の相談に無料で乗ってみる。この「プロトタイプ起業」の考え方は、資金がない人にとって最強のスタート戦略です。
完璧な準備が整うのを待っていたら、永遠に起業できません。小さく始めて、反応を見て、改善する。このサイクルこそが、資金ゼロ起業の王道です。
「人を動かす意志」の伝え方
資金がないとき、人の力を借りることが不可欠になります。本書では、協力者・支援者・初期顧客を引き寄せるための「意志の伝え方」も具体的に解説されています。
ポイントは3つです。
- 何を解こうとしているか(課題)を明確にする
- なぜ自分がやるのか(必然性)を語る
- 相手にどう関わってほしいか(役割)を具体的に示す
抽象的な夢を語るだけでは人は動きません。「この課題を、こういう形で解きたい。あなたにはこういう形で力を貸してほしい」——このレベルまで具体化することで、初めて人は動き始めます。
補助金・助成金は「後から使う武器」と心得る
中小企業診断士として補助金支援に携わってきた私の立場から付け加えると、資金調達の手段として補助金・助成金は確かに有効です。しかし、補助金は「起業の代わり」ではなく「走り始めてから加速するための燃料」です。
守屋氏の本書のメッセージとも重なりますが、補助金ありきで起業を考え始めると、「採択されなかったら起業しない」という本末転倒な思考に陥りがちです。まず動く。そして資金が必要な局面で補助金や融資を活用する——この順番が、長続きする起業の姿です。
えだもんの現場から——「意志が資本」を証明した起業家たち
📝 えだもんの現場視点
100社以上を見てきて感じるのは、「準備が整ったら動く」という人がほぼ永遠に動かないということです。ある飲食志望の方は3年間、資金を貯めながら計画を練り続けました。しかし動き出したとき、当初想定した立地のトレンドは変わっていた。一方、別の方は週末マルシェへの出店から始め、1年後には実店舗を構えていた。市場は待ってくれません。小さく始めた人が結局、早く本物になっていきます。
資金ゼロからスタートした支援先の実例
私がこれまで伴走してきた経営者の中にも、まさにこの本が説く「意志起点」で動き始めた人が複数います。
ある福祉事業の経営者は、最初は自宅の一室を使い、知人のネットワークだけを頼りにサービスを始めました。資本金は最低限。事業計画書より先に「この人を助けたい」という具体的な一人の顔がありました。その後、実績を積んで融資を受け、現在は地域で欠かせない存在になっています。
守屋氏の言葉を借りれば、「意志が信用を生み、信用が資金を呼んだ」典型例です。
「もう少し準備してから」が命取りになる理由
一方で、準備期間が長引いて結局動けなかった人も見てきました。その多くに共通するのは、「完璧な計画を立てようとしていた」という点です。
市場は常に動いています。2年かけて練り上げた計画が、いざ動き始めたときには陳腐化していた——これは決して珍しいことではありません。本書が繰り返す「まず動け」というメッセージは、単なる精神論ではなく、市場の現実を踏まえた合理的なアドバイスです。
この本を最大限に活かすための読み方
「自分の起業仮説」を持ちながら読む
本書は読み物として面白いだけでなく、自分の起業アイデアを検証するための問いかけが随所に散りばめられています。ただ通読するのではなく、「自分だったらどうか」という問いを持ちながら読むことを強くおすすめします。
付箋を貼りながら、自分の仮説と照らし合わせる。章の終わりに「自分の答え」を書き出してみる。そういう使い方をすることで、読後に「行動」が生まれやすくなります。
「起業家予備軍」以外にも効く一冊
本書は起業を考えている人だけでなく、社内で新規事業を立ち上げようとしている人や、既存事業を変革しようとしている経営者にも刺さる内容です。「意志からスタートして課題を解く」というアプローチは、起業に限らずあらゆる事業創造に通じる普遍的な原則だからです。
14年間でビジネス書を2,000冊以上読んできた私が断言しますが、この本は「一度読んで終わり」ではなく、節目節目に読み返す価値がある一冊です。起業前に読んで動き始め、起業後に読んで初心を思い出す——そういう使い方が最もこの本の価値を引き出します。
まとめ——意志を持った人間に、資金は後からついてくる
📝 えだもんの現場視点
補助金支援の現場でよく見るのが、「補助金が採択されたら起業する」という考え方です。気持ちはわかりますが、これは本末転倒です。補助金は走り始めてから使う燃料であって、起業の許可証ではない。守屋氏の本書を読んで、この順番の大切さを改めて確認しました。意志があって動き始めた人が補助金を活用すると、事業が一気に加速する。逆は成立しないことを、現場で何度も目撃しています。
『起業は意志が10割』が伝えるメッセージを一言で言えば、「起業の条件は整えるものではなく、意志によって生み出すものだ」ということです。
資金がないことは、起業できない理由にはなりません。むしろ、資金がないからこそ「誰かの課題を本気で解こうとする意志」と「最小コストで価値を届ける工夫」が磨かれます。それが、長期的に強い事業を作る土台になります。
中小企業診断士として、そして伴走型CFOとして100社以上の経営者と向き合ってきた私が確信を持って言えるのは——最終的に事業を生き残らせるのは、資金力でも学歴でもなく、「なぜ自分がこれをやるのか」という答えを持ち続ける意志の力だということです。
まだ起業できていない人へ。今日から動けます。読んでください、そして動いてください。
明日の一手
本を読んで「よかった」で終わらせないために、今日から動ける具体的な一手を提示します。守屋氏が言う「意志」は、動き始めることで初めて本物になります。
- 自分の身近にある「誰かが困っていること」を1つ書き出してください。メモアプリでも、紙の裏でも構いません。「なぜ困っているのか」「なぜ今も解決されていないのか」を3行で書く——これが、課題起点の起業思考の第一歩です。
- 書き出した課題について、信頼できる人1人に30分話してみてください。「相手の反応を見る」ことが目的です。共感されたか、別の課題を指摘されたか——その反応が、仮説を磨く最初のフィードバックになります。宣言することで、自分の意志も固まります。
- 毎週1時間、「自分の起業仮説ノート」を書く習慣を作ってください。課題・解決策・自分がやる理由・想定顧客——この4項目を毎週更新し続けることで、1ヶ月後には起業の輪郭が見えてきます。守屋氏の言う「意志」は、書き続けることで研ぎ澄まされていきます。
この記事のまとめ(Q&A)
資金がなくて起業の一歩が踏み出せないときはどうすればいい?
『起業は意志が10割』は、起業の最初に必要なのはお金ではなく、問いを立てる力と動く意志だと説いています。資金は事業が動き始めてから調達すればよく、最初の一歩は手元のリソースと「やる」という意志で踏み出せます。まずは身近な「誰かが困っていること」を1つ書き出し、信頼できる人に30分話してみるのが具体的な始め方です。
起業における「意志」とは何?
本書でいう意志は、漠然とした「やってみたい気持ち」とは区別されます。「なぜ自分がやるのか」「誰のどんな課題を解くのか」「それをやり続ける覚悟があるか」という問いに、答えを持っていることを指します。この答えが明確だと、壁にぶつかったときに立ち戻れる軸になります。
資金ゼロから身の丈で起業するには?
課題起点で考え、最小単位で試すのが基本です。身近な課題を見つけ、解けない理由を掘り下げ、自分の強みや人脈と照らし合わせてから、小さな形で解決策を試します。飲食ならマルシェへの出店、コンサルなら知人の相談に無料で乗ることが例に挙がります。補助金や融資は、走り始めて資金が必要になった段階で活用する順番が長続きにつながります。
この記事の根拠と執筆背景
執筆者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。
執筆・更新日
執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

コメント