資産階段の次の一段は戦略が違う|『THE WEALTH LADDER』のレベル別戦略と中小企業経営者の2階段の整理

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本書第2部の結論:階段はレベルごとに戦略が根本から違う

ニック・マジューリ『THE WEALTH LADDER 富の階段』の第2部は、6つのレベル(余裕なし/食料品の自由/レストランの自由/旅行の自由/住居の自由/影響力の自由)それぞれに、独立した章を割いています。本書の核心的主張は、階段を登る動き方はレベルごとに根本から違うということです。下のレベルの人が上のレベルの戦略を真似しても機能しないし、その逆も同じ。

特に印象的なのが、著者が前作『JUST KEEP BUYING』について本書の中で自己位置づけしている箇所です。同書はレベル2〜3向け(資産1万〜100万ドル未満)の戦略を書いたものだと明言しています。つまり「淡々と買い続ける」という原則は、そもそも本書第6章の投資戦略の延長であり、それより上のレベルには別戦略が要るという明確な階層設計が本書にはあります。

中小企業経営者の多くは、本書の目線でいうとレベル3〜5(レストランの自由〜住居の自由)のレンジに位置します。このレンジで次の一段を登る動き方を、本書の章立てに沿って整理します。

各レベルの戦略をそのまま本書から引くと

本書第2部の章題を並べると、本書の階段観がそのまま読み取れます。

  • 第4章 レベル1(余裕なし)— 生存戦略:著者は「レベル1の真の問題は支出ではない」と書き、収入を増やす方向への誘導を推奨
  • 第5章 レベル2(食料品の自由)— 教育&スキル戦略:キャリアで収入を上げる段階
  • 第6章 レベル3(レストランの自由)— 投資戦略:ジャスト・キープ・バイイングはこのレベル向け
  • 第7章 レベル4(旅行の自由)— 起業戦略:キャリア収入だけでは抜けられないと明言
  • 第8章 レベル5(住居の自由)— 事業拡大戦略
  • 第9章 レベル6(影響力の自由)— 資産防衛戦略

中小企業経営者にとって特に重要なのは、第6章(投資)と第7章(起業)の継ぎ目です。本書は、レベル4を抜けてレベル5に至る唯一の現実解として事業の株式を持つことを挙げています。レベル5世帯は平均して資産の31%をビジネスに投資している、というデータも本書で示されています。

本書が「これまでのやり方は、これからは役に立たない」と書く理由

第7章の中で印象深い引用があります。マーシャル・ゴールドスミスの有名なフレーズ「これまでのやり方は、これからは役に立たない」です。本書は、この言葉を使ってレベル4の壁を説明します。

著者の計算によれば、資産100万ドル(レベル4の入口)に到達した後、仕事で年10万ドルの貯蓄を続けても、インフレ調整後年利回り5%でレベル5(1000万ドル)に届くのは28年後。年20万ドル貯蓄でも21年、年30万ドルでも17年かかります。キャリア収入だけでは時間的に間に合わない。だからこそ事業株式の保有が必要になる、という構造です。

中小企業経営者は、この本書の主張から見ると非常に有利な立場にいます。既に自社株を保有しているか、経営者個人として株式的なキャッシュフロー権を持っているからです。本書が言う「レベル5への切符」は、多くの経営者がすでに手にしている。問題はその切符の「価値」をどう高めるか、そして切符の裏面にある連帯保証というリスクをどう整理するかに移ります。

中小企業経営者は本書の階段を2本に分けて見る

本書は個人資産の階段を1本だけ描きますが、経営者は会社の階段と個人の階段の2本立てで見るのが現実的です。これは本書に書かれていない筆者の拡張ですが、日本の中小企業経営者の現場で機能させるには必要な補正です。

会社の階段

経常利益率、内部留保水準、借入残高と月次キャッシュフローの関係で測る階段です。売上の絶対額ではなく、事業がどれだけ自律的に回せるかが軸になります。本書の章立てに対応させると、第7章(起業戦略)と第8章(事業拡大戦略)の守備範囲です。

個人の階段

個人純資産、投資資産比率、生活防衛資金で測る階段。ただし中小企業経営者の場合、前回記事で触れたとおり、会社借入の個人連帯保証残を差し引いた実質純資産で判定します。第6章(投資戦略)の内容が直接効くのはこちらです。

2本立てで見ると動き方の順序が決まる

会社の階段が低いのに個人の階段だけを無理に登ろうとすると、役員報酬の上げすぎで会社の資金が痩せ、事業投資が後回しになります。逆に個人の階段を全部後回しにして会社の階段ばかり登ると、経営者個人の生活防衛資金が枯れ、判断エネルギーが不安定になる。2本の階段のうち、低いほうから先に登るのが原則です。

会社の階段が下にあるときの動き方(本書第6章の前段)

会社の経常利益率が目安として10%未満、または返済額が減価償却費を上回って月次キャッシュフローが圧迫されている状態では、本書の投資戦略の前段で、事業の利益構造と財務の整理が先決です。これは本書が暗黙に前提とする「個人が投資に回す余力がある状態」を作るための作業になります。

会社の階段を上げた実例:借換で月次60万のキャッシュを生んだ福祉施設

2024年秋から継続支援に入っている福祉施設の37歳・2代目経営者のケースです。コロナ前後に意欲的に事業拡大に挑戦した後、撤退した事業もあり、返済タイミングがバラバラの複数借入を抱えていました。設備借入の期間が短く返済額が減価償却費を上回る状態で、月次キャッシュフローを慢性的に圧迫していた。

銀行同席で国の借り換え一本化制度を使い、1億弱を15年で引き直しました。金利は若干上がりましたが、返済ペースが減価償却費と同等水準に落ち、月次キャッシュフローが約60万円改善しました。浮いたキャッシュは人手不足の事業体の雇用拡大に回し、売上も伸びています。

この経営者で効いたのは、本書の第6章(投資戦略)に入る前段として、会社の階段を先に上げたことでした。本書の段階モデルが想定する「個人資産の戦略」の議論が機能する前提を、会社側の作業で整えた形になります。

本書第7章(起業戦略)が直接効いた実例:人材派遣会社の成長期

2022年頃から定期的に関わっている人材派遣+イベント事業の経営者の話です。相談時33歳、2年間で従業員数が3倍近くに増える急成長期に入りました。

最初の相談は組織論でした。「スキルのある人が集まるが、愛社精神が薄い気がする」。僕が返したのは視点の転換でした。「辞めないことを当たり前と見るか、社長の人徳と取り組みの成果と見るかで、経営判断は180度変わる」。この思い込みが外れてから、経営判断が前に進むようになり、組織が大きく成長しました。

この経営者は本書の言う第7章(起業戦略)の渦中にいて、自社株の価値を高める局面にいました。本書が指摘するレベル4〜5の戦略は、こうした成長期の経営者にそのまま当てはまります。ポイントは、成長期こそ判断エネルギーを節約する仕組みを個人資産側で作っておくこと。役員報酬を決めたら積立比率を固定し、数字を毎月悩まない状態にする。具体金額は公開しませんが、本業の意思決定に集中するためのインフラ整備として機能しました。

もし「役員報酬を上げて個人投資を増やしたい」という相談が来たら

仮に年商2億規模・従業員15名の経営者から「会社は黒字なので役員報酬を上げて個人投資を加速したい」と相談が来た場合、僕が確認するのは金額の妥当性です。

目安として、役員報酬は従業員平均賃金のおおむね3倍を上限の参考にしています。経営者が個人でリスクを取り、経営判断と雇用を背負っている対価として、このくらいの差は健全性の観点から納得感が出ます。3倍を大きく超えて設定すると従業員から見た会社の求心力が落ち、組織運営にしわ寄せが出ます。3倍前後にいるなら、役員報酬を動かすより新NISA等の税制活用で積立効率を上げる方向を優先します。3倍未満なら、会社の利益と相談しながら上げる余地があります。

役員報酬の水準が決まってから、本書第6章の投資戦略が経営者個人の家計の中で意味を持ち始めます。

本書を中小企業経営者用に使うときの3つの実装ルール

  1. 階段を「会社用」と「個人用」の2本に分けて測る(本書にない筆者の拡張)
  2. 低いほうの階段から先に登る。会社が低ければ事業改善と財務整理(本書第6章の前段)、個人が低ければ生活防衛資金と積立仕組み化(本書第6章の内容)
  3. 登る動機を本人の中で言語化する。階段モデルは登り方を教えてくれるが、登る理由は本書の守備範囲の外にある

明日の一手:2本の階段の現在地と次の一段を紙に書く

明日、30分だけ時間を取って、紙に書いてください。

  1. 会社の階段の現在地:直近期の経常利益率、内部留保水準、月次キャッシュフローの返済倍率
  2. 個人の階段の現在地:実質純資産(帳簿上個人純資産 − 個人連帯保証残)、投資資産比率、生活防衛資金の月数
  3. どちらが低いかの判定
  4. 低いほうの階段を半段上げるために今月着手する最小アクションを1つ
  5. なぜ階段を登りたいのか:登り切った先で、いくつのとき・何をしている自分でいたいか

大きなジャンプを狙わず、半段ずつ着実に。本書の本質的な強みは、半段でも着実に積めば大きな差になる設計にあります。5番目が他の4つを意味あるものに変える軸です。

この記事の根拠と執筆背景

主要な参考書籍

本記事はニック・マジューリ 著『THE WEALTH LADDER 富の階段』を主要な参考書籍としています。書中の6段階(余裕なし/食料品の自由/レストランの自由/旅行の自由/住居の自由/影響力の自由)と第2部(第4〜9章)の各レベルの戦略、そして著者が前作『JUST KEEP BUYING』を「レベル2〜3向けの戦略」と位置づけている箇所を引用しました。記事内の「会社の階段/個人の階段の2本立て」は本書原典にない筆者の実務翻訳です。

引用した支援事例について

  • 事例①: 福祉施設(37歳・2代目経営者・2024年秋から継続支援)。国の借り換え一本化制度で1億弱・15年の引き直しを実施し、月次キャッシュフローを約60万円改善。社名・個人名は匿名化。
  • 事例②: 人材派遣+イベント事業(相談時33歳経営者・2022年頃〜定期コミュニケーション継続)。視点転換の対話と成長期の意思決定支援。2年で従業員が3倍近くに増加。社名・個人名は匿名化。具体金額は公開していません。

執筆日・最終更新日

執筆: 2026-04-21 / 最終更新: 2026-04-21(原典PDFベース再リライト)

著者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士、複数法人経営者。九州中心に経営改善・資金繰り改善・事業承継の伴走支援を実施。

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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