資産形成の全体像が見えず、次の一手に迷っている——『THE WEALTH LADDER 富の階段』に学ぶ、今いるステージで最適な行動を選ぶ技術

お金・資産形成

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『THE WEALTH LADDER 富の階段』(ニック・マジューリ)
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「投資を始めた方がいいのは分かっている。でも、まず何から手をつければいいのか……」

中小企業の経営者や個人事業主と話していると、こういう言葉を何度も耳にする。売上は立っている。事業は回っている。でも気がつくと、自分自身の資産形成は後回しになったまま何年も経っている——そんな方が本当に多い。

そしてよくあるパターンが、「とりあえず投資信託を買ってみた」「知人に勧められた不動産を検討し始めた」というステージを無視した行動だ。情報は溢れているのに、自分が今どこにいるかが分からないまま走り続けている。

今回紹介する『THE WEALTH LADDER 富の階段』は、そのモヤモヤに対する明快な答えを持っている。著者のニック・マジューリは米国の資産運用会社でデータアナリストを務め、数字と実証に基づく資産形成論で世界中に読者を持つライターだ。本書のエッセンスはシンプルに言えばこうなる。「富の築き方に正解はひとつではない。ただし、あなたが今いる段に合った正解がある」——その羅針盤を提供してくれる一冊だ。

なぜ「正しい行動」が人によって違うのか——富の6段階という視点

📝 えだもんの現場視点

支援先の建設業の社長(年商2億円)と資産形成の話をしたとき、真っ先に出てきたのが「何に手をつけていいか分からない」という言葉でした。話を聞くと、法人の小規模企業共済もiDeCoも未加入で、手元資金は運転資金と混在したまま。本書でいう「安定の段」にも達していない状態で、不動産投資の情報ばかり集めていました。まず土台を固めることから始めましょう、と提案したとき、社長の表情が初めてスッキリしたのを覚えています。

6段階の階段とは何か

本書の骨格は、資産形成を6つの段階(ラダー)に分けて捉えるフレームワークにある。各ステージは、保有資産の規模や経済的な立場の違いによって定義されており、おおよそ以下のように整理できる。

  1. 生き残りの段(サバイバル):収入が支出をかろうじて上回るか、下回っている状態。まずは赤字脱出が最優先。
  2. 安定の段(スタビリティ):収支がプラスになり、緊急資金を積み始められる状態。
  3. 蓄積の段(アキュムレーション):余剰資金を投資に回し始め、資産が形成されていく段階。
  4. 維持の段(プリザベーション):ある程度の資産を持ち、守ることも意識し始める段階。
  5. 豊かさの段(アフルエンス):資産収入が生活費の一定割合を賄えるようになる段階。
  6. 自由の段(フリーダム):資産だけで生活が成立するか、それに近い水準に達した段階。

重要なのは、どの段にいるかによって「今やるべき最優先事項」がまったく異なるという点だ。

「ステージ無視の失敗」はなぜ起きるのか

情報過多の時代、私たちは毎日のようにFIRE達成者の体験談や、億り人の投資術を目にする。しかしそれらの多くは上位のステージに到達した人の話だ。蓄積の段にいる人が維持の段の戦略を取り入れ、安定の段にいる人が蓄積の段の行動を急ぐ——そこにミスマッチが生まれる。

ニック・マジューリはこれをデータで示す。たとえば、緊急資金(3〜6ヶ月分の生活費)が確保できていない段階で株式投資に資金を集中させると、暴落時に強制売却を余儀なくされるリスクが高まる。守るべき土台が固まっていないのに、上の階段に飛び移ろうとすれば転落する——その事実を、感情論ではなく数字で突きつけてくれる。

経営者・個人事業主に刺さる「稼ぐ力」と「守る力」の順序

最初に強化すべきは収入側のレバーだという主張

本書が特に経営者に響くのは、「資産形成の初期段階において、投資利回りより収入増加のインパクトの方が圧倒的に大きい」という主張だ。

たとえば、手元資金が100万円の状態で年利5%の運用をしても、増える金額は年間5万円にすぎない。しかし売上を月10万円伸ばせれば、年間で120万円の差が生まれる。この段階では、投資の最適化より稼ぐ力を磨くことへの投資(スキルアップ、人脈、事業への再投資)の方がリターンが高い。

事業を持つ経営者や個人事業主にとって、これは「本業に全力を尽くすこと自体が最良の資産形成だ」というエールでもある。

節税・法人化・補助金という「経営者ならではの武器」

サラリーマンにはない経営者特有の強みが、本書のフレームと重なる部分がある。それが節税・法人化・補助金の活用だ。

蓄積の段に入るためには「投資に回せる余剰資金」が必要になる。その余剰を生み出す最短ルートは、支出を削ることではなく税負担を合法的に下げることと、使える制度をフル活用することだ。個人事業主が適切なタイミングで法人化し、小規模企業共済やiDeCoを組み合わせると、年間の手取りが数十万〜百万円単位で変わることもある。

「稼いでいるのにお金が残らない」という感覚は、多くの場合、ステージと手段のミスマッチから来ている。

「貯め方」より「考え方」を変える——行動経済学的なアプローチ

人間は感情で失敗する。だから仕組みで動く

本書の優れた点のひとつは、行動経済学的な視点が随所に織り込まれていることだ。著者は、投資で失敗する最大の原因は知識不足ではなく行動バイアスだと繰り返す。

  • 損失回避バイアス:損失の痛みは利益の喜びの2倍以上に感じられる。だから暴落時に売ってしまう。
  • 現在バイアス:将来の100万円より今日の1万円を優先してしまう。だから貯蓄が続かない。
  • 確証バイアス:自分の選んだ銘柄・手法を正当化する情報ばかり集めてしまう。

これらを「意志力で克服しよう」という発想を本書は取らない。代わりに「仕組みで自動化せよ」という処方箋を提示する。自動積立、自動送金、先取り貯蓄——感情が介入する余地を減らすことで、行動を継続させる設計だ。

経営者こそ「自分の感情」に注意が必要な理由

経営者は判断力と行動力を持つ。それは強みだが、資産形成の文脈では両刃の剣になることがある。「自分でコントロールしたい」という経営者気質が、インデックス投資のような「何もしない」戦略への抵抗感につながりやすい。

しかし本書のデータが示すのは、アクティブに動くほど長期リターンが下がるケースが統計的に多いという事実だ。自分でコントロールしたいエネルギーは事業に向け、資産運用は「適切に設計してあとは放置」が最良——そのメッセージは、経営者の行動習慣を根本から問い直させる力を持っている。

中小企業診断士・えだもんの現場視点

📝 えだもんの現場視点

100社以上の経営者を見てきて強く感じるのは、「稼ぐ力はあるが残す仕組みがない」という共通パターンです。月次試算表を見ると利益は出ているのに、個人の通帳は薄い。その原因の多くは、節税の手を打たないまま税金と社会保険料に持っていかれていることです。本書が「初期段階では収入を増やし・流出を防ぐことが最優先」と言う通り、補助金申請や法人化のタイミング調整で年間数十万円の手残りが変わった経営者を何人も見てきました。

100社以上を見て気づいた「ステージのズレ」という問題

私はこれまで九州を中心に100社以上の経営者の伴走支援をしてきた。その中で繰り返し目にしてきたのが、本書でいう「ステージのズレ」だ。

売上は月500万円を超えているのに、個人の通帳には200万円しかない。理由を聞くと、税金・保険料・返済・生活費で消えていく。法人化のタイミングも、小規模企業共済への加入もまだ手をつけていない——「まず落ち着いたら考えます」が口癖になっている。

本書の言葉を借りれば、その経営者は「安定の段」にいながら「蓄積の段」の議論をしている状態だった。土台を固める前に次の話をしても、実行できないのは当然だ。診断士として私が最初にすることは、今どの段にいるかを一緒に確認することから始まる。

補助金・資金繰りは「階段を上るためのブースター」

本書を読んで改めて感じたのは、補助金や資金繰り改善が「階段を一段上るためのブースター」として機能するという視点だ。事業再構築補助金やものづくり補助金で設備投資を進め、その分の自己資金を個人の資産形成に回す——この流れを設計できた経営者は、確実に資産の土台が変わっていく。

補助金はもらうことが目的ではなく、ステージを上げるための戦略的なツールとして使う視点が重要だ。支援現場でもこの考え方を軸に、経営と個人財務の両輪を整えることを意識するようになった。

事業承継・出口戦略と「富の階段」の接点

経営者の資産形成は「会社の出口」と切り離せない

中小企業の経営者にとって、資産形成を語る上で避けられないテーマがある。それが事業承継と出口戦略だ。会社の株式が個人資産の大半を占めるケースでは、会社の価値を上げることと個人の資産を分散させることの両方を意識しなければならない。

本書の「維持の段」「豊かさの段」に当たる議論は、まさにこのフェーズに重なる。一定の資産を築いた後、いかにリスクを分散させ、次世代への移転を設計するか——その視点は、事業承継を支援してきた私の経験と強くリンクしている。

「会社に全部賭けている」経営者への警鐘

会社が順調なときは、個人資産のほとんどを会社に投下していてもリスクを感じにくい。しかし、業績が急変したとき、あるいは病気や事故で働けなくなったとき、会社依存の資産構造は一気に崩れる。

本書は「集中からの分散」を富の成熟段階において一貫して推奨する。経営者が個人として金融資産を積み上げておくことは、事業リスクへの保険でもある。この視点は、経営者向けのファイナンシャルプランニングにおいて、私が必ず提示するようにしている考え方と一致する。

明日の一手——「今いる段」を知ることから始める

📝 えだもんの現場視点

事業承継の支援をしていると、「会社の株しか資産がない」という経営者に頻繁に出会います。会社が好調な間はそれでも回りますが、後継者問題や業績悪化が重なったとき、個人財務が一気に危うくなる。本書の「維持の段」以降で強調される分散の重要性は、まさにこの問題への処方箋です。経営者こそ、会社と切り離した個人資産を積み上げることが経営リスクへの保険になる——この視点を伝えると、多くの社長が「そう考えたことがなかった」と言います。

まず自分のステージを診断する

本書を読んだ後に最初にやるべきことは、投資商品を選ぶことでも節税策を調べることでもない。「自分は今、6段階のどこにいるか」を正直に確認することだ。

以下のチェックリストを使って、現在地を把握してほしい。

  • 収入は支出を安定して上回っているか
  • 3〜6ヶ月分の生活費に相当する緊急資金が手元にあるか
  • 高金利の借入(カードローン等)は完済しているか
  • iDeCo・小規模企業共済など節税型の積立を最大活用しているか
  • 投資元本が月々の収入の何ヶ月分か

これらを確認するだけで、「次の一手」がかなり絞り込まれてくる。

「段に合った行動」を選び直す

今の自分のステージが見えたら、そのステージに合った行動だけに集中する。上の段の話は情報として知るのはいいが、実行するのは今の段が固まってからでいい。

本書が教えてくれる最大のメッセージはここに凝縮されている。「正しいことを、正しい順番でやる」——シンプルだが、実行できている人は驚くほど少ない。経営者として意思決定のプロであるあなたにこそ、このフレームワークを手にしてほしい。

『THE WEALTH LADDER 富の階段』は、資産形成の全体地図を手渡してくれる本だ。地図を持てば、迷いは消える。迷いが消えれば、次の一歩を踏み出せる。

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明日の一手

本書のメッセージは「正しいことを、正しい順番でやる」——ただそれだけです。まず今日、自分が富の階段のどこにいるかを確認するところから始めてみてください。

  1. 紙1枚に「毎月の手取り収入」「毎月の支出合計」「今の手元資金(緊急資金として使える額)」の3つの数字を書き出し、本書の6段階のどこに当てはまるかを自己診断する。
  2. 小規模企業共済・iDeCo・法人保険のうち、まだ活用していないものをひとつ選んでネットで制度概要を調べ、顧問税理士か中小企業診断士に「自分の場合どう使えるか」を質問するアポを入れる。
  3. 毎月の余剰資金(どんな少額でも可)を先取りで別口座に自動送金する仕組みを設定し、1ヶ月後にその金額が本書のどの段に向けた資金として位置づけられるかを再確認する習慣をつくる。

この記事のまとめ(Q&A)

資産形成で次の一手に迷ったときは、どう考えればよいですか?

『THE WEALTH LADDER 富の階段』は、資産形成を生き残り・安定・蓄積・維持・豊かさ・自由の6つの段に分けて捉えます。段によって最優先の行動が異なるため、まず自分が今どの段にいるかを確認することが出発点です。収支、緊急資金の有無、高金利の借入、節税型積立の活用状況を見れば、次の一手がかなり絞り込まれます。上の段の話は情報として知るにとどめ、実行は今の段が固まってから進めます。

資産形成の初期段階で、投資と本業のどちらを優先すべきですか?

本書は、初期段階では投資利回りより収入増加のインパクトの方が大きいと述べています。たとえば手元資金100万円を年利5%で運用しても、増えるのは年間5万円です。一方、売上を月10万円伸ばせれば年間120万円の差が生まれます。経営者や個人事業主の場合、スキルアップや事業への再投資といった稼ぐ力への投資が、この段階での有力な資産形成になります。

経営者が資産形成で見落としやすい点とは?

本業が好調なうちは、個人資産のほとんどを会社に投下していてもリスクを感じにくい点です。業績の急変や、病気・事故で働けなくなった場合には、会社に依存した資産構造が一気に崩れます。本書は成熟した段階で集中からの分散を推奨しており、会社と切り離した個人の金融資産を積み上げることは事業リスクへの保険になります。あわせて、感情に左右されないよう自動積立や先取り貯蓄で仕組み化することも勧められています。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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