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『新しい一歩を踏み出そう!』(守屋 実)
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「いつか自分でやってみたい事業がある。でも、何から始めればいいかわからない。失敗したらどうしよう。タイミングが来たらやろう——」
そう思いながら、気づけば何年も経っていた。そんな経験はないだろうか。
私はこれまで中小企業診断士として100社以上の経営者に伴走してきた。その中で痛感するのは、「最初の一歩を踏み出せないまま、機会を逃し続けている人がいかに多いか」ということだ。アイデアも意欲も十分にある。ただ、「型」を知らないだけで動けずにいる——その姿が何度も目に焼きついている。
今回紹介する『新しい一歩を踏み出そう!』(守屋 実著)は、まさにそんな人に読んでほしい一冊だ。著者の守屋実氏は、ミスミやジャフコを経て独立後、30社以上の新規事業・ベンチャー支援に携わってきた、日本屈指の「新事業創出の実践者」。本書には、華やかな成功論ではなく、泥臭い現場から磨き上げられた「動き出すための型」が詰まっている。
14年で2,000冊超のビジネス書を読んできた私が、この本を選書メディア「本で解く」で取り上げるのは、読んだその日から行動が変わる実用性があるからだ。理論より実践、概念より手順——そういう本が本当に人を動かす。
著者・守屋実とは何者か——「新規事業のプロ」が語る言葉の重み
📝 えだもんの現場視点
支援先の建設業の社長が「新しい事業をやりたいが、何から手をつければいいかわからない」と相談してきたことがある。話を聞くと、アイデアも意欲も十分にあった。ただ、「どう動けばいいかの型」を知らないだけだった。本書を渡したところ、翌月には既存顧客への小さな提案を始めていた。型を知るだけで人は動ける、と改めて実感した瞬間だった。
30社以上の立ち上げに携わった実践者
守屋実氏のキャリアは異色だ。ミスミという部品メーカーで新規事業を担当し、その後ベンチャーキャピタルのジャフコへ。独立後は、ラクスル・メドレー・プレックスといった現在の有名スタートアップの初期を支援してきた。肩書きは「新規事業家」。事業を「考える人」ではなく、「立ち上げ続ける人」だ。
この違いは決定的に大きい。コンサルタントや学者が語る起業論と、自分の手と足で何十もの事業を動かしてきた人間の言葉とでは、情報の密度がまるで違う。本書のすべてのページに、その重みが宿っている。
本書が伝えようとしているたった一つのこと
本書のメッセージは、シンプルだ。——これに尽きる。守屋氏は言う。「新しいことを始めるのに、特別な才能も、潤沢な資金も、完璧なタイミングも必要ない。必要なのは、最初の一歩を踏み出す意思と、そのための具体的な手順だ」と。
耳に心地よいだけの言葉ではない。本書にはその「手順」が、惜しみなく書かれている。
なぜ人は「最初の一歩」を踏み出せないのか
「準備不足」という幻想
本書が鋭く指摘するのは、「準備が足りないから動けない」というのは多くの場合、思考の罠だということだ。人は不確実性を前にすると、「もっと情報を集めよう」「もう少し勉強してから」と先送りする。しかし守屋氏によれば、新規事業や起業において「完璧な準備」が整う日は永遠に来ない。市場は変わり、競合は動き、機会は消えていく。
重要なのは、「小さく始めて、早く学ぶ」というサイクルに入ることだ。本書ではこれを「実験思考」と呼ぶ。事業計画を100ページ書くより、10人に話を聞いて1つのプロトタイプを試す方が、圧倒的に多くを学べると著者は断言する。
「失敗への恐怖」を乗り越える視点の転換
もう一つの壁は、失敗への恐怖だ。守屋氏は本書の中で、自身の失敗経験を隠さずに語っている。うまくいかなかった事業、想定と外れた判断、後悔した決断——それらを包み隠さず開示しながら、「失敗は損失ではなく、情報だ」という視点を提示する。
起業や新規事業における「失敗」の多くは、取り返しのつかない破綻ではない。小さな仮説の検証が「不正解」だったというだけだ。この認識の転換が、一歩を踏み出す勇気の源になる。
本書が教える「動き出すための型」——実践者の手順書
「問い」から始める事業の見つけ方
守屋氏が強調するのは、事業は「アイデア」より「問い」から始まるということだ。「何か面白いことをやりたい」という漠然とした意欲より、「なぜこの業界にはこれがないのか」「この不便はなぜ解消されないのか」という具体的な問いの方が、事業の種として強い。
本書では、日常の中に潜む「問い」を見つけるための観察の習慣が紹介されている。経営者として、あるいは個人事業主として日々業務をこなす中で、「おかしいな」「もったいないな」と感じる瞬間——そこにこそ、新しい一歩の起点がある。
「最小の一歩」を設計する
本書の中で特に印象的なのが、「最初の一歩を可能な限り小さく設計する」という考え方だ。守屋氏は、多くの人が「一歩目」を大きく設定しすぎていると言う。独立するなら会社を辞めなければ、事業をやるなら資金調達が必要——こうした思い込みが、行動を阻んでいる。
実際には、副業として週末に試してみる、既存の取引先に新しいサービスを提案してみる、SNSで小さく発信してみる——こうした「最小の一歩」から始めることで、リスクを抑えながら学びを得ることができる。この「小さく始める技術」は、特に現役の経営者や個人事業主にとって、すぐに使える実践的な視点だ。
「仲間の選び方」と「最初の顧客の見つけ方」
守屋氏はまた、新しい事業を動かす上での「人」の重要性を丁寧に説いている。特に印象的なのは、「最初の仲間」と「最初の顧客」はどちらも”信頼”が先で”契約”が後だというメッセージだ。
SNSでの発信、勉強会への参加、既存のネットワークの棚卸し——これらを通じて「この人と何かやりたい」「この人の課題を解きたい」という関係を積み上げていくことが、事業の土台になる。孤独に計画を練るより、人とつながりながら事業を形にしていくことを、本書は勧めている。
中小企業経営者・個人事業主への応用——「守屋の型」を現場に落とし込む
📝 えだもんの現場視点
100社以上の経営者を見てきて感じるのは、「最初の一歩を踏み出せない経営者」に共通するパターンがあるということだ。それは「準備が整ったらやる」という思考習慣だ。しかし市場も競合も動き続けている。補助金のタイミング、承継のタイミング——待っているうちに機会は消える。守屋氏が言う「動きながら完成させる」は、私が現場で繰り返し伝えてきたことと完全に一致している。
新規事業は「別会社」ではなく「今の延長」から始められる
本書を読んで、私が中小企業診断士として特に響いたのは、新規事業は既存の事業の延長線上に設計できるという視点だ。守屋氏のアプローチは、ゼロから革新的なビジネスを立ち上げることだけを指しているのではない。今の強みや顧客基盤を活かしながら、「少しだけ違う何か」を試すことも、立派な「新しい一歩」だ。
たとえば、製造業の経営者が自社の加工技術を活かしてBtoCのオリジナル商品を出す。飲食店のオーナーが仕込みのノウハウを活かして食品ロス削減のサービスを始める。士業が専門知識を活かしてオンライン講座を開く——こうした「今の資産の横展開」こそが、中小企業・個人事業主にとって最も現実的な「新しい一歩」だと私は考える。
「事業承継」と「新しい一歩」は矛盾しない
私の専門領域の一つが事業承継だが、承継を控えた経営者の中にも「新しいことをやってみたい」という思いを抱えている人は多い。しかし「承継前に余計なことをするな」という周囲の声に押されて、やりたいことを封印してしまうケースが少なくない。
守屋氏の言葉を借りれば、「やりたいことを先送りにするコストは、挑戦のコストより高い」。事業承継の準備をしながらでも、小さな実験は始められる。むしろ、後継者と一緒に新しい領域に踏み出すことが、承継後の事業に活力をもたらすことも多い。本書はそういった視点でも読める一冊だ。
この本を読んで「動き出せる人」と「動き出せない人」の差
本を「読む」だけで終わらせないために
14年で2,000冊超のビジネス書を読んできた私が、常に自分に問いかけることがある。「この本を読んで、明日の自分の行動は変わるか」——これだ。残念ながら、良書を読んでも行動につながらない人は多い。なぜか。それは、本から得た「気づき」を「自分の文脈」に翻訳できていないからだと思う。
守屋氏の本は、読んだ後に「さあ、自分の場合は何か」と問いかけるための素材が豊富に詰まっている。各章の問いかけ、事例の構造、著者自身の失敗談——これらを「自分事」として受け取れた人だけが、次の一歩を踏み出せる。
「完璧」より「開始」を選べる経営者になる
本書の最大のメッセージを一言で言えば、「始めることが、最高の準備だ」ということだと私は受け取った。経営者として、個人事業主として、あるいは起業を志す人として——今この瞬間に持っているリソースで、できる最小の一歩は何か。それを問い続けること自体が、守屋氏が本書で伝えたかったことの核心ではないだろうか。
やりたいことを温め続けている人へ。準備が足りないと感じて立ち止まっている人へ。この本は、背中を押すだけでなく、具体的な手順と勇気を同時に手渡してくれる。それが、私がこの一冊を「本で解く」で紹介する理由だ。
明日の一手——今日から始める「新しい一歩」の設計
📝 えだもんの現場視点
事業承継の支援をしている中で、「後継者と一緒に新しいことを始めたい」と話してくれた先代経営者がいた。周囲は「今は承継に集中すべき」と止めたが、私は背中を押した。小さな新規サービスを試した経験が、後継者の自信と社内の活性化につながった。本書が言う「やりたいことの先送りコストは挑戦コストより高い」——この言葉は、現場での実感そのものだ。
本書を読み終えたら、ぜひ次のアクションを試してほしい。守屋氏の言う「動き出す型」を、自分の現場に落とし込む具体的な手順だ。
- 今日できること:「最近、おかしいな・もったいないなと感じた場面」を3つ書き出す。事業のタネはここにある。
- 今週中に試せること:やりたいことを「最小の形」に分解し、今の資産(顧客・技術・ネットワーク)と掛け合わせて1行で表現してみる。
- 1ヶ月後を目標に:信頼できる人1人に「こんなことをやってみたい」と話してみる。反応を聞くだけでいい。それが守屋氏の言う「最初の一歩」になる。
完璧な計画より、不完全な行動の方が、必ず多くを教えてくれる。
明日の一手
本書の教えを「読んで終わり」にしないために、今日から動ける3つのアクションを提案する。守屋氏が言うように、完璧な準備より「最小の一歩」を踏み出すことが、すべての始まりだ。
- 手帳かメモアプリを開き、「最近、おかしいな・もったいないな・なぜこれがないんだろう」と感じた場面を3つ書き出す。事業のタネは、日常の違和感の中にある。考えすぎず、思いついたものをそのまま書くだけでいい。
- やってみたいことを「今持っているリソース(顧客・技術・人脈・知識)」と掛け合わせて、「〇〇を使って、△△な人に、□□を提供する」という1文に整理してみる。完成度は問わない。言語化することで、最初の一歩が具体的に見えてくる。
- 信頼できる人(仲間の経営者・パートナー・顧客)1人に、「こんなことをやってみたいと思っている」と話す機会を月1回つくる習慣を始める。承認や協力を求めるのではなく、「話すこと」自体がコミットメントになり、行動を加速させる。
この記事のまとめ(Q&A)
最初の一歩を踏み出せないのはなぜ?
『新しい一歩を踏み出そう!』によれば、「準備が足りないから動けない」という考えは多くの場合、思考の罠です。人は不確実性を前にすると、情報収集や勉強を理由に先送りしがちです。加えて、失敗への恐怖も動けない理由になります。著者の守屋実氏は、完璧な準備が整う日は来ないと述べています。失敗は損失ではなく情報だと捉え直すことが、動き出す土台になります。
新規事業や起業の最初の一歩を小さく始めるには?
本書は、最初の一歩を可能な限り小さく設計することを勧めています。独立するなら会社を辞める、事業をやるなら資金調達が必要といった思い込みを外すことが出発点です。具体例として、副業として週末に試す、既存の取引先に新しいサービスを提案する、SNSで小さく発信する、といった方法があります。小さく始めて早く学ぶ「実験思考」で、リスクを抑えながら学びを得られます。
中小企業の経営者や個人事業主は新しい事業をどう始めればよい?
新規事業は、今の強みや顧客基盤の延長線上から設計できます。たとえば製造業が自社の加工技術を活かしてオリジナル商品を出す、士業が専門知識でオンライン講座を開く、といった「今の資産の横展開」です。まず日常で「おかしい」「もったいない」と感じた場面を3つ書き出し、手持ちのリソースと掛け合わせて1文にまとめます。その後、信頼できる人1人に話してみることが次の一歩になります。
この記事の根拠と執筆背景
執筆者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。
執筆・更新日
執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

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