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『嫌われずに人を動かすすごい叱り方』(田辺 晃)
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「あの言い方、きつすぎたかな……」
叱った翌朝、部下と目が合わない。ミーティングの空気が重い。売上の数字は追えても、関係の修復の仕方がわからない。そんな経験が一度でもある経営者は、きっと少なくないはずです。
中小企業の現場では、経営者が直接スタッフに指摘を入れる場面が日常的に発生します。大企業のように人事部が間に入ってくれるわけでもなく、外部のコーチングを入れる余裕もない。「叱る」という行為は、経営者が一人で背負わなければならない孤独なコミュニケーションです。
今回紹介する『嫌われずに人を動かすすごい叱り方』(田辺晃 著)は、そのしんどさに正面から向き合った一冊です。「叱り方のテクニック集」ではなく、叱ることを通じて人間関係を深め、組織を育てるための思想と実践が詰まっています。
この記事では、私・えだもんが100社以上の中小企業経営者に伴走してきた現場の実感と、本書のエッセンスを重ね合わせながら、「叱った後に信頼が育つ」仕組みの作り方をお伝えします。
なぜ「叱り方」は経営者にとって最重要スキルなのか
📝 えだもんの現場視点
支援先の建設業の社長が「厳しく言ったら若手が翌週来なくなった」と落ち込んでいたことがありました。話を聞くと、叱った後に一切フォローがなく、翌日も普通に接していたと。本人に悪意はない。ただ「叱り放し」が習慣になっていた。本書の「翌日の一言」を実践してもらうだけで、残ったスタッフとの関係が見違えるように改善されました。
人は「叱られ方」で会社を選ぶ時代になった
採用難が続く今、退職理由の上位に「上司・経営者との関係」が長年ランクインし続けています。問題は「叱られたこと」ではなく、「叱られた後に何もフォローがなかったこと」であるケースが圧倒的に多い。
田辺氏は本書の冒頭でこう指摘します。「叱ることを恐れる必要はない。ただし、叱り方と叱った後の関わりが、その人の職場人生を左右する」と。経営者が叱ることを避けるようになると、組織の中で問題行動が放置され、真面目に働くスタッフほど不満を溜めてやめていきます。叱ることは義務であり、技術です。
「嫌われたくない」という感情が叱り方を歪める
経営者が叱り方を誤る最大の原因は、「嫌われたくない」という感情です。この感情自体は自然なものですが、それが行動を歪めると、叱ることを先送りして感情が爆発する「遅延爆発型」や、本質を言わずに遠回しな指摘だけをする「曖昧叱り」になってしまいます。
本書では、嫌われることを恐れずに叱るための「心の土台」として、「叱るのは相手の成長のためである」という信念を持つことを繰り返し強調しています。この信念があるかどうかで、言葉の受け取られ方が根本から変わるのです。
本書が教える「信頼を壊さない叱り方」の3原則
原則1:事実だけを叱る、人格を叱らない
本書が最初に提示する原則は、「行動・事実を指摘する。人格・性格を責めない」というものです。
「なんでいつもこうなんだ」「だからお前はダメなんだ」——これは人格攻撃です。受け取った相手は防衛反応を起こし、反省よりも反発を選びます。一方、「今日の報告書、数字の根拠が抜けていたね。次回はこの項目も入れてほしい」という指摘は、行動に対するフィードバックであり、相手が改善行動を取りやすくなります。
叱る前に一呼吸おいて、「自分は今、事実を叱おうとしているか、それとも感情をぶつけようとしているか」を確認する習慣が、信頼を守る第一歩です。
原則2:叱る場所・タイミングを選ぶ
本書では、叱り方と同様に「どこで、いつ叱るか」にも重大な意味があることを説いています。他のスタッフの前で叱ることは、指摘の内容がどれだけ正当であっても、相手に羞恥心と怒りを同時に与え、関係修復を難しくします。
田辺氏が推奨するのは、「1対1のクローズドな場で、できるだけ早いタイミングに」という原則です。問題が起きた当日中に個別に時間を取り、静かな場所で話す。これだけで、叱られた側の受容度は大きく変わるとされています。
原則3:叱った後に必ずフォローの言葉を添える
本書の中で私が最も重要だと感じた教えが、この「叱った後のフォロー」です。田辺氏は「叱り放しは、ただの怒りの発散に過ぎない」と断言します。
具体的には、叱った後に次のような言葉を添えることが推奨されています。
- 「こういうことを伝えたのは、あなたに成長してほしいからだよ」
- 「うまくいかなかったときは相談してくれ。一緒に考える」
- 「今日の話は、ここで終わりにしよう。次からまたよろしく」
たった一言でも、このフォローがあるかどうかで、相手が翌日から前向きに動けるかどうかが決まります。叱ることは、フォローまでがセットの行為なのです。
「叱った後の関係修復」を習慣化するフレームワーク
📝 えだもんの現場視点
100社以上を見てきて確信しているのは、定着率の高い会社の経営者は例外なく「叱った後の空気の戻し方」が上手いということです。感情的に激しく指摘していても、翌日には笑顔で声をかける。その一貫性がスタッフに「指摘は仕事の話であって、自分への否定ではない」と伝わる。叱り方のスキルより、この「戻す技術」のほうがずっと重要だと感じています。
「叱り→冷却→フォロー」の3ステップを型にする
本書が提示するアプローチを、私なりに整理すると次の3ステップになります。
- 叱る(Confront):事実ベースで、1対1で、感情が冷めているときに
- 冷却する(Cool):叱った後すぐに追い打ちをかけない。相手に消化する時間を与える
- フォローする(Care):翌日以降、意図的に声をかける。仕事ぶりを肯定する
この「3C」を型として意識するだけで、叱り方の質は大きく変わります。特に中小企業経営者にとって難しいのが「冷却」のフェーズです。指摘した後に気になってもう一度言ってしまう、あるいは逆に完全に避けてしまう——どちらも関係修復を遠ざけます。意図的に「待つ」ことが、次のフォローを有効にします。
翌日の「何気ない一言」が信頼を取り戻す
田辺氏は本書の中で、叱った翌日に何気なく声をかけることの重要性を繰り返し強調しています。「昨日は大変だったね」「今日の調子はどう?」という短い言葉でいい。それだけで、「あなたのことを怒っているわけではない、仕事のことを指摘した」というメッセージが伝わります。
逆に、叱った翌日に経営者が気まずそうに避けてしまうと、部下は「自分は嫌われたのだ」と受け取ります。その解釈が積み重なって、静かな離職につながっていくのです。
中小企業経営者が「叱る文化」を組織に根付かせるために
経営者自身が「叱られ上手」になる
本書の後半で田辺氏が述べているポイントの中で、特に経営者に刺さる視点があります。それは「叱る文化を作るには、経営者自身が叱られる姿を見せることが重要」という指摘です。
スタッフや取引先からフィードバックをもらったとき、経営者が素直に「そうだったか、ありがとう」と受け取れるかどうか。その一場面が、組織全体の「指摘し合える空気」を作ります。トップが防衛的だと、スタッフも防衛的になります。
「叱り方のルール」を言語化して共有する
組織が大きくなるにつれて、経営者だけが叱るのではなく、リーダー層が叱る場面も増えます。そのときに「うちの叱り方のスタンダード」が言語化されていないと、人によって叱り方がばらばらになり、スタッフが混乱します。
本書をベースに、自社の「叱り方ガイドライン」を1枚にまとめることをおすすめします。「事実ベースで指摘する」「個別に話す」「翌日フォローを入れる」といった原則を明文化するだけで、リーダー層が一貫した姿勢を持てるようになります。
えだもんが本書を経営者に勧める理由
📝 えだもんの現場視点
事業承継の支援をしていると、先代と後継者の間に「叱り方の傷」が残っていることがよくあります。何年も前に一方的に責め立てられた記憶が、後継者の自信を奪い、関係をこじれさせている。叱り方は、その瞬間だけでなく数年後の組織にまで影響します。だからこそ、経営者には早い段階でこの技術を身につけてほしいのです。
「人が育つ会社」と「人が離れる会社」の差はここにある
100社以上の中小企業に伴走してきた実感として、業績が安定している会社ほど、経営者の「叱り方」が丁寧です。感情的に怒鳴る経営者の会社は、入れ替わりが激しく、採用コストが収益を圧迫します。一方、叱った後に必ずフォローを入れる経営者の会社は、スタッフが長く定着し、育った人材が次の世代を育てる好循環が生まれています。
これは偶然ではありません。人が育つ会社の経営者は、叱ることを「コミュニケーションのひとつ」として捉え、その質を継続的に高めようとしています。本書はまさに、そのための実践書です。
読んだ翌日から使える具体性が詰まっている
本書のもうひとつの強みは、抽象論ではなく、明日から使えるセリフや行動例が豊富に掲載されている点です。「こういうときは何と言えばいいか」という経営者の悩みに、ページを開くたびにヒントが見つかります。
忙しい経営者でも、気になったページだけをつまみ読みして実践できる構成になっているのも、現場感覚に合っています。ビジネス書を2,000冊以上読んできた私の目線で言っても、「コストパフォーマンスの高い一冊」です。手元に置いて、叱り方に迷うたびに開いてほしい本です。
補助金や資金繰りより先に、人の問題を解決せよ
経営者の相談の多くは、最終的に「人の問題」に行き着きます。資金繰りが苦しい背景に、キーマンの離職がある。補助金を活用したいのに、実行できる人材がいない。事業承継が進まないのは、後継者との関係がこじれているから——。
人の問題を解決しないかぎり、財務的な施策は根を張れません。だからこそ、私は財務や補助金と並行して、経営者の「人との関わり方」にも踏み込むようにしています。『嫌われずに人を動かすすごい叱り方』は、その入り口として経営者に手渡したい一冊です。
明日の一手
本書を読んで「なるほど」と思うだけでは何も変わりません。今日から行動に移すために、3つのステップに分けて具体的なアクションを提案します。
- 直近で叱った場面を一つ思い出し、翌日その相手に「あの話は終わりにしよう、また一緒に頑張ろう」と一言かけてみる。メールやチャットでも構いません。この「小さなフォロー」が、関係修復の第一歩になります。
- 次に誰かを叱る場面が来たとき、「1対1の場で、事実だけを伝え、最後にフォローの言葉を添える」という3ステップを意識して実践してみる。叱った後にメモをとり、自分の言い方を振り返る時間を5分だけ作りましょう。
- 本書を参考に、自社の「叱り方の原則」を箇条書き3〜5項目でA4一枚にまとめ、リーダー層と共有する。月に一度、叱り方について経営者自身が振り返るチェックタイムを手帳に設定し、習慣として組織に根付かせましょう。
この記事のまとめ(Q&A)
部下を叱った後に関係が気まずくなるのはなぜ?
叱った後にフォローがないと、相手は「嫌われた」と解釈してしまうためです。叱ることは悪いことではありませんが、叱り放しにすることで信頼が損なわれます。『嫌われずに人を動かすすごい叱り方』では、叱った翌日に何気なく声をかける「フォローの習慣」が関係修復の鍵だと説いています。指摘した事実と、相手への信頼は切り離して伝えることが大切です。
嫌われずに部下を叱るにはどうすればいい?
叱る際は「人格ではなく行動・事実を指摘すること」「1対1のクローズドな場を選ぶこと」「叱った後にフォローの言葉を添えること」の3原則が基本です。感情が高ぶっているときに叱ることを避け、冷静な状態で事実ベースで話すことで、相手の受容度が大きく変わります。叱ることは関係を壊す行為ではなく、正しく行えば信頼を深める機会になります。
中小企業経営者が叱り方を学ぶべき理由は?
中小企業では経営者が直接スタッフに指摘する場面が多く、その叱り方が定着率や組織の雰囲気に直結するからです。叱り方が適切でないと人材が離れ、採用コストが経営を圧迫します。逆に叱った後のフォローを習慣化すると、スタッフが長く定着し人材が育つ好循環が生まれます。『嫌われずに人を動かすすごい叱り方』は、明日から使える具体的な言葉や行動例とともに、この好循環を作る方法を教えてくれる実践書です。
この記事の根拠と執筆背景
執筆者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。
執筆・更新日
執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

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