年金だけでは老後が不安な個人事業主へ——『知らないと損する年金の真実』に学ぶ自分年金を設計する方法

お金・資産形成

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『知らないと損する年金の真実』(大江 英樹 他)
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「国民年金だけじゃ、老後は絶対に足りないよな……」

支援先の経営者と話すとき、この不安を口にしない人のほうが少ない。個人事業主や中小企業の経営者は、会社員のように厚生年金が自動的に上乗せされるわけではない。毎月の国民年金保険料を払いながら、「これで将来どうなるのか」を誰にも聞けないまま、ただ漠然とした不安を抱え続けている人が多い。

私自身、14年間で2,000冊超のビジネス書を読み、中小企業診断士として100社以上の経営者に伴走してきた。その現場で痛感するのは、「年金の誤解が、老後設計の最初のつまずきになっている」という事実だ。

今回紹介する『知らないと損する年金の真実』(大江英樹 他)は、複雑でわかりにくい年金制度の「本当のところ」を、感情論や不安煽りなしに正確に解説してくれる一冊だ。個人事業主・経営者が老後の備えを設計するうえで、これほど実用的な入門書はなかなかない。

なぜ個人事業主は年金で損をするのか

📝 えだもんの現場視点

支援先の建設業の社長(50代・個人事業主歴20年)は、毎年届くねんきん定期便を一度も開封したことがないと話してくれた。「どうせ少ないのはわかってる」と笑っていたが、実際に一緒に確認すると、iDeCoへの加入で年間で40万円近い節税が可能なことが判明。「もっと早く知りたかった」という言葉が忘れられない。

会社員との「年金格差」はどこから生まれるか

日本の公的年金は「2階建て構造」だ。1階部分が国民年金(基礎年金)、2階部分が厚生年金。会社員は給与から自動的に厚生年金が引かれ、会社が半額を負担する。一方、個人事業主や経営者(国民健康保険加入者)は1階部分の国民年金のみ。この「1階しかない」状態が、老後の受取額に大きな差を生む。

本書では、2024年度の数字をもとに、会社員が受け取れる厚生年金の平均額と国民年金のみの受取額の差を明示している。月額で10万円以上の差が生じることもあるというデータは、個人事業主にとって決して他人事ではない。

「年金は破綻する」は本当か

メディアや SNS で繰り返される「年金崩壊論」。しかし本書はこの通説に対し、データと制度の仕組みから冷静に反論する。日本の公的年金は積立方式ではなく「賦課方式」——現役世代の保険料が今の受給者を支える構造だ。少子高齢化の影響を受けるのは事実だが、「ゼロになる」わけではなく、給付水準が調整されていく(マクロ経済スライド)という仕組みを理解するだけで、不安の質が変わる。

正確な現状認識こそが、正しい備えの出発点になる。本書の最大の貢献のひとつは、「不安を煽らずに事実を伝える」スタンスにある。

個人事業主が使える「上乗せ年金」の手段

国民年金基金とiDeCoの違いを理解する

1階しかない個人事業主が2階・3階を自分で作るための制度が複数存在する。本書はそれぞれの特徴を丁寧に整理している。

  • 国民年金基金:公的年金の上乗せとして機能。掛金は全額社会保険料控除の対象。終身年金として受け取れる安心感がある。
  • iDeCo(個人型確定拠出年金):自分で運用商品を選ぶ。個人事業主は月最大6.8万円まで拠出可能。掛金は全額所得控除、運用益は非課税という税制メリットが大きい。
  • 小規模企業共済:いわゆる「経営者の退職金制度」。掛金は全額所得控除。廃業・退職時に共済金を受け取れる。

これら3つを組み合わせることで、会社員の「厚生年金+企業年金」に相当する層を自分で積み上げることができる。

掛金と節税の「二重のメリット」を活かす

個人事業主にとって見逃せないのが節税効果だ。たとえばiDeCoで月5万円拠出した場合、年間60万円が所得控除になる。課税所得が高い事業者ほど、実質的な手取りコストが下がる。

本書では「老後の備え」と「現役時代の節税」を同時に達成できるこの構造を、具体的な数字でわかりやすく示している。「年金は損」という思い込みが、実はこうした制度の活用を阻んでいることも指摘されており、考え方のアップデートを促してくれる。

年金の「受け取り方」で生涯受取額が変わる

繰上げ受給vs繰下げ受給——どちらが得か

年金の受け取り開始時期は、65歳を基準に「繰上げ(最短60歳)」または「繰下げ(最長75歳)」を選択できる。本書の核心のひとつがここだ。

  • 繰上げ受給:1ヶ月早めるごとに0.4%減額。60歳受給開始なら24%減額(永久に)。
  • 繰下げ受給:1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額。75歳まで繰り下げると最大84%増額。

一見「繰り下げが得」に思えるが、健康寿命や手元資金のキャッシュフロー、税・社会保険への影響を総合的に考える必要がある。本書はこの判断軸を丁寧に整理しており、「自分の状況で何を優先すべきか」が見えてくる。

加給年金・振替加算を知っているか

見落とされがちな制度が「加給年金」と「振替加算」だ。一定の条件(配偶者の年齢差など)を満たすと、65歳以降に年額で数十万円が上乗せされる制度だが、申請しなければ一切もらえない。本書はこうした「知っている人だけが得をする」制度を丁寧に解説している。

制度を知らないことによる損失は、何十万円・何百万円単位になることもある。まさに「知らないと損する」という書名の通りだ。

経営者・個人事業主が老後設計で陥りがちな落とし穴

📝 えだもんの現場視点

100社以上の経営者を伴走支援してきて気づくのは、「事業が年金代わり」と考えている経営者ほど、廃業や体調不良で想定外のリタイアを迎えたとき、老後資金がほぼゼロに近い状態になるリスクを抱えているという事実だ。小規模企業共済すら未加入のケースも多く、早期からの制度活用を促すことが伴走支援の重要な役割だと感じている。

「事業が年金代わり」という危険な発想

支援先の経営者から「うちは事業を売れば老後は大丈夫」「店を続けながら稼ぐから年金はいらない」という言葉を聞くことは珍しくない。しかし事業承継・M&Aの現場で見えてくるのは、思い通りに事業を売れるケースは決して多くないという現実だ。

本書も「事業収入を老後の柱にする場合のリスク」について触れており、公的年金の受給額を正確に把握したうえで、事業外の備えを並行して持つことの重要性を説いている。

配偶者の年金設計を忘れていないか

個人事業主の配偶者が「専業主婦(夫)」の場合、国民年金の第3号被保険者にはなれない(会社員の配偶者が対象)。つまり、配偶者も国民年金保険料を自分で支払い続ける必要がある。

本書はこの点を丁寧に解説しており、「夫婦単位で年金設計を考える」視点を提供してくれる。老後の家計を安定させるには、自分ひとりの年金だけでなく、パートナーの受給設計もセットで考えることが不可欠だ。

本書を読んで私が変えた「老後設計の考え方」

「不安」ではなく「数字」で考える習慣へ

この本を読んで最も印象に残ったのは、年金に対する「感情のノイズ」を取り除いて、制度を正確に理解することの大切さだ。「年金は危ない」「どうせ減る」という漠然とした不安は、正確な知識がないから生まれる。

ねんきん定期便を開封せずに捨てていた人が、本書を読んでから「自分の受給見込み額」を初めて把握し、iDeCoの掛金設定を見直した——そういう変化が、支援先でも実際に起きている。不安を行動に変えるためのファーストステップは、数字を直視することだ。

年金は「制度を使い倒すゲーム」と捉える

14年間、2,000冊超のビジネス書を読んできた私が感じるのは、「知識は武器」という単純だが重要な事実だ。年金制度は複雑に見えるが、本書を読むと「攻略できるゲーム」に見えてくる。繰下げ受給のタイミング、iDeCoの活用、小規模企業共済との組み合わせ——これらは全て、正しい知識があって初めて選択できる手段だ。

個人事業主・経営者こそ、公的制度を「使い倒す」発想で年金と向き合ってほしい。本書はその地図になる一冊だ。

明日の一手——読んだ翌日からできる行動リスト

📝 えだもんの現場視点

飲食店を経営する40代の女性経営者から「繰上げ受給を考えている」と相談を受けたことがある。資金繰りが厳しく少しでも早く受け取りたいという気持ちは理解できる。しかし永久に24%減額というデメリットを数字で示すと、表情が変わった。正しい情報を届けるだけで意思決定の質が変わる——これが年金知識の現場での価値だと実感している。

本書の内容を「知識で終わらせない」ために、具体的な行動に落とし込もう。

  1. 【今日】「ねんきんネット」に登録し、自分の年金受給見込み額を確認する(所要15分)
  2. 【今週中】iDeCo・国民年金基金・小規模企業共済の3つの制度を比較し、自分が未加入のものを洗い出す
  3. 【1ヶ月後】税理士やFPと「年金+退職設計」をテーマに30分の相談アポを入れ、自分の老後キャッシュフロー表を1枚作成する

老後の不安は、「知らない」から来ることが多い。本書を手に取ることが、その不安を「設計」に変える最初の一歩になる。


この記事は、中小企業診断士・えだもんが運営する選書メディア「本で解く(hondetoku.jp)」に掲載しています。100社以上の経営者支援の現場で実際に役立てている書籍を厳選して紹介しています。

明日の一手

本書の知識を「頭の中だけ」で終わらせないために、今日から3ステップで動き出そう。小さな行動の積み重ねが、老後の安心を「設計図」に変えていく。

  1. 「ねんきんネット(https://www.nenkin.go.jp/n_net/)」にアクセスし、基礎年金番号を手元に用意してアカウントを作成する。自分の年金受給見込み額と納付記録を15分で確認しよう。まず「自分の現在地」を数字で把握することが、老後設計の最初の一歩だ。
  2. iDeCo・国民年金基金・小規模企業共済の3制度について、自分の加入状況を確認し、未加入の制度の公式サイトで概要資料を1つダウンロードする。掛金の上限額と節税シミュレーションを確認するだけで、「今すぐ使える手段」が見えてくる。
  3. 1ヶ月以内に、税理士・FP・中小企業診断士のいずれかと「老後・退職設計」をテーマに30分の個別相談をセットする。その際、ねんきんネットで確認した受給見込み額と、現在の月次キャッシュフローの概算を持参すると話が具体的に進む。「老後の家計収支表」を1枚作ることをゴールにしよう。

この記事のまとめ(Q&A)

個人事業主が年金で不安を抱えやすいのはなぜ?

日本の公的年金は2階建てで、会社員は1階の国民年金に加えて2階の厚生年金が自動的に上乗せされます。個人事業主や経営者は国民健康保険の加入者で、1階の国民年金のみです。『知らないと損する年金の真実』では、会社員の厚生年金と国民年金のみの受取額に、月額で10万円以上の差が生じることもあると整理されています。この差があるうえに、ねんきん定期便を開かないまま不安だけが残る人が多いことが背景にあります。

個人事業主が自分年金をつくるには?

1階しかない状態を補うために、国民年金基金、iDeCo、小規模企業共済の3つを組み合わせます。国民年金基金は終身年金として受け取れ、掛金は全額が社会保険料控除の対象です。iDeCoは個人事業主で月最大6.8万円まで拠出でき、掛金は全額所得控除、運用益は非課税です。小規模企業共済は経営者の退職金制度にあたり、掛金は全額所得控除です。まずはねんきんネットで受給見込み額を確認し、未加入の制度を洗い出すことから始めます。

年金の繰上げ受給と繰下げ受給はどう選ぶ?

受給開始は65歳が基準で、最短60歳の繰上げ、最長75歳の繰下げを選べます。繰上げは1ヶ月早めるごとに0.4%減額され、60歳開始なら24%の減額が一生続きます。繰下げは1ヶ月遅らせるごとに0.7%増額され、75歳まで遅らせると最大84%の増額です。増額率だけで決めず、健康寿命、手元資金のキャッシュフロー、税や社会保険への影響をあわせて判断する必要があります。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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