「社員の給料、上げたいけど…」役員報酬の悩み、あなただけじゃない!【待ったなしの現状】
経営者として会社を大きくしてきた。売上も上がってきた。社員も増えた。なのに、毎月の役員報酬を決める瞬間だけ、妙な罪悪感に押しつぶされそうになる——そんな経営者が、今この瞬間も日本中に無数にいる。
「頑張ってくれている社員の給料を上げたい。でも、自分の生活だって守らなければならない。」この葛藤は、弱さでも欲深さでもない。むしろ、真剣に経営と向き合っている証拠だ。ただし、その葛藤を「感情」のまま放置していると、経営判断は確実に歪んでいく。
多くの中小企業経営者が陥るのが、「なんとなく決めている役員報酬」という罠だ。税理士に言われるまま、あるいは前年踏襲で、根拠のない数字を毎年ただ更新し続ける。これは、計器もなく夜の海を航行するようなものだ。どこに向かっているのかわからないまま、燃料だけ消費していく。
そして気づいたときには、優秀な社員がひとり、またひとりと辞めていく。残った社員のモチベーションは底を打ち、採用コストだけが膨らんでいく。P/Lの上では売上が伸びているのに、利益が薄くなり続けるという奇妙な現象が起きる。その原因を「市場環境」や「人手不足」のせいにしているうちは、何も変わらない。
問題の根っこは、経営者の報酬設計に「フェアネスの基準」がないことだ。
社員は敏感だ。経営者が自分の報酬を黙って引き上げながら、「今年は業績が厳しくて…」と賃上げを先送りにしていれば、数字を見なくても空気で察する。言葉にはしなくても、その瞬間から「この会社で頑張っても意味がない」というスイッチが入る。これが、じわじわと組織を腐らせていく本当のメカニズムだ。
では、どうすればいいのか。感情論でも精神論でもなく、構造として解決するしかない。
田口一成氏の著書『9割の社会問題はビジネスで解決できる』には、この問題に対する鮮烈な答えが記されている。ボーダレス・ジャパンが実際に運用しているルール——「経営者の報酬は、一番給与の低い社員の7倍以内」という基準だ。これは理念ではなく、社長会での議論を経て定められた「仕組み」だ。感情や力関係ではなく、客観的なロジックで経営者の報酬に上限を設ける。このアプローチは、創業者が「苦労を取り返そう」として自分の報酬だけを先に引き上げるという、よくある歪みを構造的に防ぐ。
田口氏自身もこう語っている。「自分が好きで始めた事業です。その事業が軌道に乗るまでは自分の給料なんかろくにもらえないのが当たり前という感覚がありましたし、事業さえ軌道に乗れば、自分の報酬も上げられます。」——この言葉の重みを、役員報酬に悩む経営者こそ、正面から受け取るべきだ。
「7倍ルール」を自社に当てはめてみてほしい。最も給与の低い社員が月25万円なら、経営者の上限は月175万円。その数字を見て、あなたはどう感じたか?「余裕だ」と感じたなら、今すぐ社員の底上げに投資する余地がある。「厳しい」と感じたなら、それはビジネスモデルそのものに問題があるサインだ。いずれにせよ、この基準は経営の現在地を一瞬で可視化する、冷徹な診断ツールになる。
役員報酬の「決め方」を感覚で済ませてきた経営者にとって、この本は生やさしい読み物ではない。しかし、その不快感の中にこそ、組織が変わる突破口がある。
今、あなたの会社の報酬設計に「フェアネスの軸」はあるか? その問いに答えられないまま経営を続けることが、社員の離脱と組織の空洞化を招く最大のリスクだ。次章では、なぜこの問題が従来の考え方では永遠に解決しないのか、その構造的な欠陥を解剖する。
なぜ「報酬問題」は解決しないのか?従来の考え方の【致命的な欠陥】
「会社の利益を最大化して、その中から公平に分配する。」——ほとんどの経営者が、報酬問題をこの二軸で考えようとする。会社全体のパイと、個人の貢献度。一見まともに聞こえるこの思考回路こそが、問題を永遠に解決させない元凶だ。
構造を冷静に見てほしい。会社の利益は有限だ。その有限のパイを「自分の取り分」と「社員への還元」で奪い合う以上、どちらかが増えればどちらかが減る。これは数学的に避けようのないゼロサムゲームだ。だから経営者は毎年同じ場所でつまずく。社員の給料を上げれば自分の報酬が圧迫され、自分の生活を守ろうとすれば社員への還元が薄くなる。この泥沼から抜け出せないのは、意志が弱いからでも、欲が深いからでもない。使っているフレームワーク自体が、構造的に「奪い合い」を前提として設計されているからだ。
さらに致命的なのが「貢献度」という幻想だ。貢献度を正確に数値化できると本気で思っているなら、それは経営者としての驕りだ。営業が取ってきた案件を支えた事務の子の貢献は?クレームを一人で抑え込んで会社の信頼を守ったベテランの価値は?どんなに精緻な評価制度を作っても、最終的に「誰が決めるか」という権力の問題に行き着く。評価される側はそれを知っている。だから制度への不信感は消えない。
この二軸思考の最大の欠陥は、「会社の利益を最大化すること」と「社員一人ひとりが豊かになること」を、別の問題として切り離してしまっている点にある。利益の最大化に目が向くあまり、その利益を生み出している人間の幸福が、計算式の外に追いやられてしまう。これは、エンジンの出力を上げることだけに熱中して、燃料タンクに穴が空いていることに気づかないようなものだ。どれだけアクセルを踏んでも、組織はじわじわと失速していく。
田口一成氏の『9割の社会問題はビジネスで解決できる』が示す「7倍ルール」の本質は、単なる上限設定ではない。このルールが解体しているのは、まさにこの「奪い合いのフレーム」そのものだ。経営者の報酬を、会社全体の利益から切り離して個別に最大化しようとする発想を、構造ごと否定している。経営者の報酬は「最も低い社員の給与」に連動する——この設計により、経営者が自分の報酬を上げたければ、まず底辺にいる社員の給与を引き上げるしかなくなる。奪い合いが、共に上がる仕組みに変換される。
従来の枠組みで何年悩んでも答えが出なかった理由は、あなたの能力の問題ではない。悩む土台となっているフレームが、最初から「解なし」の方程式だったからだ。解くべき問題を変えない限り、どれだけ努力しても同じ場所をぐるぐると回り続けるだけだ。では、そのフレームを壊した後に、何を置けばいいのか。次章でその答えを示す。
社会問題解決が「報酬問題」を打破する!【9割が知らない】ボーダレス・ジャパン式 報酬設計
明日からできる!社会問題解決型経営で「報酬」と「やりがい」を最大化する【決断の時】
ここまで読んできたあなたは、もう気づいているはずだ。役員報酬の悩みは、報酬の「決め方」の問題ではなかった。事業が「何のために存在しているか」という、経営の根幹に関わる問題だったと。
「7倍ルール」も「ソーシャルインパクト指標」も、単なるテクニックではない。これらは、「奪い合いの経営」から「創り出す経営」へのパラダイムシフトを実装するための、具体的な装置だ。そして、このシフトを起こすために必要なのは、大規模な組織改革でも、多額の投資でもない。必要なのは、たった一つの問いに向き合う覚悟だけだ。
「あなたの会社は、誰の、どんな問題を解決しているか。」
この問いに、数値で答えられるなら、あなたはすでにスタートラインに立っている。答えが曖昧なら、それが今の報酬設計の混乱と組織の停滞を生んでいる、根本原因だ。
難しく考える必要はない。地域の高齢者の孤立を防いでいるなら「接触頻度と笑顔の数」でいい。食品ロスを減らしているなら「廃棄削減量(トン)」でいい。採用に苦しむ中小企業を救っているなら「内定承諾率の改善件数」でいい。あなたの事業が解決している社会問題を一行で定義し、その解決度合いを一つの数字で追いかける。それだけで、報酬設計の議論は「感情の綱引き」から「数字に基づく合意」へと変わる。
羅針盤のない船が嵐の中を航行するのと、目的地の座標が明確な船が同じ嵐を越えるのとでは、乗組員の表情がまるで違う。ソーシャルインパクトの指標を持った瞬間、あなたの会社は初めて「どこへ向かっているか」を全員が共有できる船になる。その船に乗りたい人間が集まり、定着し、共に報酬を上げていく。これが、田口一成氏が『9割の社会問題はビジネスで解決できる』で描いた、ボーダレス・ジャパンの実像だ。
社員の給料を上げ、自分の報酬も最適化し、社会全体をより良くする——三つが同時に実現するのは理想論ではない。三つを同時に実現する「構造」を意図的に設計した者だけが手にできる、現実の成果だ。その設計図は、すでにこの一冊の中にある。
論理は理解した。仕組みも見えた。あとは、あなたが動くかどうかだけだ。この地獄を脱するための鍵が、今すぐ手の届く場所にある。

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