PDCAを速く回すより「回転回数」を増やす|冨田和成『超鬼速PDCA』の誤解されやすい核心を経営者向けに整理

経営改善

「鬼速」の誤解から始まる

冨田和成さんの『超鬼速PDCA』は、タイトルのインパクトから「PDCAを速く回せ」という本だと誤解されがちです。僕が支援する経営者も、本書を最初に読んだ感想で「もっと速く決めて速く動こう」と言う人が多い。

これは半分正解、半分誤解です。本書の真意は、PDCAの速度ではなく回転回数を増やすことにあります。1サイクルを短くすることで、同じ期間内で回せる回数を10倍にする。結果として、学習曲線が急峻になる。これが本書の核心です。

今日は、中小企業診断士として複数の経営者と本書の実装を試した立場から、「速さ」と「回転回数」の違いを明確にし、中小企業の現場で機能する設計を整理します。

速さを追うと失敗する理由

「PDCAを速く回す」だけを追求すると、よくある失敗パターンに陥ります。

失敗1:Plan(計画)を省略する

「速さ」重視の経営者は、計画段階を短縮しがちです。「計画はもう十分、早く実行」と決めて、すぐDoに入る。結果、検証しようにも何を検証すべきか曖昧になり、Checkが機能しない。

失敗2:Check(検証)が雑になる

速く次に進みたい焦りから、検証が感覚的になる。「なんとなくうまくいった」で次に進んでしまう。これではサイクルが回っても学習が蓄積しません。

失敗3:Action(改善)が試行錯誤のカオスになる

速く回そうとすると、各サイクルで試す施策がバラバラになる。前回との一貫性が失われ、組織が「今週は何をやればいいんだ」と混乱する。

回転回数を増やすための3つの設計

本書の本質的な教えは、質を落とさずに回数を増やすサイクル設計です。3つの設計原則があります。

設計1:サイクル単位を目的別に分ける

すべてを日次で回す必要はない。目的別にサイクル単位を分けます。

  • 戦略レベル:四半期サイクル(事業方針・投資判断)
  • 戦術レベル:月次サイクル(マーケ施策・採用施策)
  • 戦闘レベル:日次サイクル(営業トーク・顧客対応・タスク管理)

全てを日次で回そうとすると組織が疲弊する。レベル別に回転数を変えるのが本書の精神に適います。

設計2:Planを短く、Checkを具体的にする

本書が強調するのは、Planは簡潔に、Checkは具体的にという配分です。計画は5分で書けるシンプルさにし、検証は具体的な数値で行う。この配分で、サイクルの質を落とさずに速度が上がります。

設計3:失敗から学ぶAction(改善)を型にする

失敗したサイクルから次のサイクルに何を持ち越すかを、型にして残す。僕が支援する会社では、次のテンプレートを使っています。

  • 何が起きたか(事実)
  • なぜ起きたか(原因仮説)
  • 次回どうするか(改善案)
  • 次回の検証指標(数値で設定)

4行のテンプレートに落とすだけで、Actionが組織知として蓄積されます。

事例:製造業の2代目社長が「回転回数」を意識して組織を変えた話

具体事例を話します。2023年頃から伴走している生命保険代理店の会社が、運動関連の新規事業を立ち上げた時の記録です。補助金・助成金を活用して初期リスクを抑えた状態でスタートしたにもかかわらず、売上が想定に届かず、損益分岐点付近を行き来する状態が続いていました。

当初の社長は「速さ」を追求していました。新しい告知手法を思いつくたびに実行、1ヶ月後に振り返らず次の施策へ。結果として、どの施策が効いたのか検証されないまま、疲弊だけが積み上がっていた。

そこで提案したのが、「回転回数」への意識の切り替えです。速さを目指すのではなく、「同じ施策を3週間で3回試す設計」に変える。週1回の Check ミーティングを入れ、改善点を次週の Plan に数値で反映。月末ではなく毎週の PDCA に切り替えました。

3ヶ月後の変化:主要施策の検証回数が、導入前の月1回→月4回に増加。どの集客チャネルが本当に効いているかが可視化され、限られた広告予算の振り分けが鋭敏になりました。売上は依然として損益分岐点付近ですが、以前のような「何が効いたか分からない」状態は完全に抜けた。本書のいう「回数の蓄積が組織の学習速度を決める」を体現した事例です。

本書の真価は、このように失敗から学ぶ速度を上げるサイクル設計にあります。速さではなく回数の設計が、特に新規事業の生存率を決めます。

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本書を正しく読むコツ

本書を中小企業経営者として読むときは、次の読み方をおすすめします。

1. 「速さ」より「回数」に下線を引く

本書を通読すると、著者が「速さ」という表現を使う箇所が多いですが、本質は「回数」です。読みながら「これは速さの話?回数の話?」と問い直しながら読むと、本書の真意が掴めます。

2. 第3章と第5章を先に読む

本書の核心は第3章(PDCAの具体設計)と第5章(Checkの数値化)にあります。第1・2章の理論は、この2章を読んでから戻ると腹落ちしやすい。

3. 自社の現状に翻訳しながら読む

本書の事例(ZUU、金融業界)を、自社の業種に読み替えながら読む。これをやらないと「うちとは違う」で終わります。

明日の一手:現在の主要施策の「検証回数」を数えてみる

ここまで読んでくれた経営者に、明日できる一歩を提案します。

明日、15分だけ時間を取って、次を紙に書き出してください。

  1. 自社で現在進行中の主要施策を3つ挙げる(例:新規顧客獲得、採用強化、既存顧客アップセル)
  2. 各施策について、「過去1年で何回検証したか」を数える
  3. 各施策の検証回数を、来年は何回に増やすかを決める

検証回数が年4回→12回に増えるだけで、組織の学習速度は大きく変わります。本書を読むのは、この数字を把握してからで十分です。読後の設計が具体的になります。

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この記事の根拠と執筆背景

主要な参考書籍

本記事は冨田和成 著『超鬼速PDCA』を主要な参考書籍としています。本書の「速さ」という表現の真意が「回転回数」にあることを、中小企業の現場で検証した結果を整理しました。

引用した支援事例について

  • 事例: 製造業(PC向けプラスチック加工・従業員20名)における2023年春〜現在の支援経験に基づきます。50代・2代目社長。主要施策の年次検証回数が4回→24回に増加。社名・個人名は匿名化しています。

執筆日・最終更新日

執筆: 2026-04-20 / 最終更新: 2026-04-20

著者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士、複数法人経営者。九州中心に経営改善・組織改革の伴走支援を実施。

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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