他人や出来事に振り回され、心がすり減る経営者へ——『ゆるストイック』に学ぶコントロールできることに集中する心の技術

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『ゆるストイック』(佐藤 航陽)
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「あの取引先のせいで、また計画が狂った」「なんであの社員は動いてくれないんだ」「補助金の採択が通らなかったら、どうしよう……」

経営者であれば、こうした言葉が頭の中を駆け巡る夜が、一度や二度ではないはずです。売上の波、人間関係のこじれ、市場の急変——経営という営みは、自分ではコントロールできないことの連続です。

でも、正直に問い直してみてください。あなたが今、最もエネルギーを注いでいるのは「自分が変えられること」ですか? それとも「どうにもならないこと」への怒りや不安ですか?

今回紹介する『ゆるストイック』(佐藤 航陽 著)は、古代ギリシャ・ローマに生まれたストア哲学を、現代のビジネスパーソンが実践できる形に落とし込んだ一冊です。タイトルの「ゆる」は、禁欲的・自虐的に自分を追い込むのではなく、しなやかに、日常の中で哲学を使いこなすというニュアンスです。2,000冊以上のビジネス書を読んできた私(えだもん)が、「これは経営者に届けなければ」と感じた理由を、この記事で余すことなく伝えます。

なぜ経営者は「コントロールできないこと」に消耗するのか

📝 えだもんの現場視点

支援先の建設業の社長が、元請けの大手から突然の発注減を告げられた時のことが忘れられません。最初の面談では「あの会社は信義を忘れた」と怒りが先行していました。しかし少しずつ、「自分たちが磨けること」に目を向けていただいた結果、半年後には新規の直接顧客開拓に動き出し、売上の構成が大きく変わりました。外への怒りより、内への集中が現実を動かすのだと、改めて実感した現場でした。

経営は「不確実性の海」を泳ぐ行為

中小企業の経営者と伴走してきた経験から言えば、メンタルを最も削るのは「業績の数字そのもの」より「先が読めない感覚」です。売上が落ちても、原因と対策が明確なら人は動けます。しかし「なぜ受注が止まったのかわからない」「あの顧客がなぜ離れたのかわからない」という状況は、不安の霧の中で立ち尽くすような感覚をもたらします。

そこに「取引先の無理な値下げ要求」「金融機関の態度の変化」「優秀な社員の突然の退職」が重なると、経営者のエネルギーは外部の出来事への反応にほぼ全て使われてしまいます。本来、戦略を考え、チームを育て、自社の強みを磨くために使うべきリソースが、消耗戦に投下され続ける——これが「心がすり減る経営者」の構造です。

感情の消耗は「判断ミス」を引き起こす

『ゆるストイック』の中で、著者の佐藤 航陽氏が強調するのは、感情の乱れは判断の質を直接下げるという事実です。怒りや焦りの中でくだした意思決定が、後から振り返ると「なぜあの時そうしたのか」と悔やまれる——そういう経験は、経営者なら必ずあるはずです。

ストア哲学の核心は、感情を「持つな」と言うのではなく、感情に「支配されるな」という点にあります。波風は立って構わない。ただ、その波に飲み込まれるかどうかは、自分が選べる——この視点が、経営者のメンタルマネジメントに深く刺さります。

ストア哲学の本質——「二分法の基準」を経営に使う

「自分の領域」と「他者の領域」を分ける

ストア哲学において最も重要な概念のひとつが、「二分法の基準(Dichotomy of Control)」です。すべての出来事を「自分がコントロールできること」と「できないこと」に明確に分け、コントロールできることにのみ全力を投じる——これがストア哲学の実践の出発点です。

『ゆるストイック』では、この概念を日常の場面に落とし込んでいます。たとえば:

  • コントロールできること:自分の言葉の選び方、提案の質、準備の深さ、今日の行動
  • コントロールできないこと:顧客の最終的な判断、市場の動向、他者の感情、天候や運

経営者が「受注できなかった」と落ち込むとき、その落ち込みのエネルギーの多くは「顧客がなぜ選ばなかったか」というコントロールできない領域への執着から来ています。一方、「どんな提案をすればよかったか」「次の機会に向けて何を変えるか」は自分の領域です。

「受け入れる」は「諦める」とは違う

この話をすると、「それは諦めろということか?」と感じる経営者がいます。しかし、ストア哲学の「受け入れる」は受動的な諦めではありません。

コントロールできないことに消耗するエネルギーを取り戻し、コントロールできることへの集中力を最大化する——それが「受け入れる」の真意です。嵐が来たとき、嵐を止めようと叫ぶのでなく、帆の角度を変えることに全力を尽くす。経営者に求められる姿勢とは、まさにこれではないでしょうか。

「ゆるストイック」が提案する日常の実践法

朝の「事前の瞑想」で、一日のブレを防ぐ

『ゆるストイック』の中で紹介されるストア的実践のひとつが、「ネガティブ・ビジュアライゼーション(事前の瞑想)」です。朝、その日に起こりうる困難や不快な出来事を穏やかに想像しておく習慣です。

「今日、大事な商談が決裂するかもしれない」「予期せぬクレームが来るかもしれない」——こうした可能性をあらかじめ頭の中で一度経験しておくことで、実際に起きた時のショックが和らぎ、冷静な対応が取れるようになります。

これは「悲観的に考えろ」ということではありません。備えることで、感情の揺れ幅を小さくする技術です。経営の世界でリスク管理を重視するのと同じ発想が、メンタルにも応用できます。

「今この瞬間」に意識を戻す技術

経営者の頭の中は、常に過去(あの判断は正しかったか)と未来(資金繰りは大丈夫か)を行き来しています。ストア哲学は、「今、自分が実際にできることは何か」に意識を戻すことを繰り返し求めます。

佐藤氏は本書の中で、この「今に戻る」実践を、特別な瞑想の時間を設けなくても、日常の小さな問いかけとして習慣化できると説明しています。「今、自分がコントロールできることは何か?」という一文を、手帳に書く。スマホのロック画面に設定する。会議の前に心の中で唱える——こうした小さな仕掛けが、思考のクセを変えていきます。

「徳(アレテー)」を経営の羅針盤にする

ストア哲学では、「徳(アレテー)」——すなわち「知恵・勇気・節制・正義」の四つの徳——が人生の羅針盤になるとされます。『ゆるストイック』では、これを現代語で「自分の価値観に沿った行動をとること」と解釈しています。

経営者にとって、これは非常に実践的な問いです。「利益のためにこの取引を受けるか?」「短期的な損でも、信頼のためにこの選択をするか?」——意思決定が難しい場面で、「自分はどんな経営者でありたいか」という軸を持っていると、判断がぶれにくくなります。

えだもんの現場視点——100社以上の伴走支援で見えたこと

📝 えだもんの現場視点

ものづくり補助金の不採択が続いた飲食業の経営者と一緒に事業計画を見直した際、「審査委員に伝わる言葉か」「市場の課題と自社の強みが噛み合っているか」という自分たちが変えられる部分に絞って改善を重ねました。審査結果そのものは委員会が決める——その割り切りが経営者の精神的な余裕を生み、3度目の申請で採択を勝ち取りました。コントロールできる領域への集中が、結果を変えた典型例です。

「外に怒る経営者」と「内を磨く経営者」の差

100社以上の経営者と伴走支援をしてきた中で、私が強く感じるのは、長期的に成果を出す経営者ほど「内に向かう」という傾向です。

業績が落ちた時、外部環境や競合や社員のせいを言い続ける経営者と、「自分の判断のどこに課題があったか」を静かに問い直す経営者——数年後の差は、歴然としています。これはストア哲学でいう「コントロールできることへの集中」そのものです。

補助金・資金繰りの現場でも「感情管理」は武器になる

私の専門領域である補助金支援や資金繰りの現場でも、ストア哲学の視点は実に有効です。補助金の不採択通知が来たとき、「なぜ通らなかったんだ」と怒りや落ち込みに時間を使う経営者がいます。一方で、「採否は審査委員会が決める(コントロールできない)。次の申請に向けて事業計画の何を磨くか(コントロールできる)」と即座に切り替えられる経営者もいます。

「心の強さ」は経営の最後の競争優位

資金力、人材、ブランド——これらは規模の大きい会社が有利です。しかし、経営者自身の「心の強さ・安定性」は、規模に関係なく磨ける競争優位です。逆境でも判断がぶれない、感情的にならずに相手の話を聴ける、長期の視点を失わない——これらはすべて、意識的に鍛えることができます。

この本が刺さる経営者・刺さらない経営者

こんな経営者に強くすすめる

  • 取引先や市場の変化に振り回され、精神的に疲弊していると感じている
  • 「頑張っているのに報われない」という感覚が続いている
  • 判断の場面でいつも感情的になってしまうと自覚している
  • 自分の「軸」や「価値観」が揺らいでいると感じている
  • メンタルの安定が、経営の質に直結すると気づき始めている

注意点:「哲学書」ではなく「実践書」として読む

本書は哲学の教科書ではありません。難解な用語や複雑な議論はほとんどなく、日常の行動レベルで何をするかに徹底してフォーカスしています。「ストア哲学」というワードに身構える必要はまったくありません。

一方で、「読むだけで変わる」魔法の本でもありません。書かれている習慣を、自分の日常に小さく組み込み、繰り返す意志が必要です。「ゆる」はハードルの低さを示していますが、続けることへのコミットは本物のストイックさが必要です。

📝 えだもんの現場視点

100社以上の経営者を見てきて確信していることがあります。事業の山場で踏ん張れる経営者は、必ずしも資金力や人脈が豊富なわけではありません。共通しているのは「感情的にならずに現実を直視できる」という心の安定感です。これはもともとの性格ではなく、意識的に鍛えてきた結果だと、本人たちも口にします。心の技術は、経営技術と同じく習得できる——そう伝え続けることが、私の伴走支援の根幹にあります。

まとめ——「外を変えよう」から「内を整えよう」へ

経営者は、常に外の世界と格闘しています。顧客、社員、競合、市場、政策——すべてが自分の意のままにはならない変数です。だからこそ、唯一自分の手の中にある「内側」を整えることが、経営者の最も本質的な仕事のひとつになります。

『ゆるストイック』は、2,000年以上前から受け継がれてきた人類の知恵を、今日の経営者が明日から使える形に変換してくれた一冊です。難しくない。特別な時間も不要。ただ、「自分がコントロールできることに集中する」という問いを、毎日少しずつ自分に向ける——それだけで、経営者としての判断の質と、人としての心の安定は、確実に変わっていきます。

ぜひ、一度手に取ってみてください。

📖 この記事で紹介した書籍

『ゆるストイック』(佐藤 航陽)
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明日の一手

本を読んで「いい話だった」で終わらせないために、えだもんが実際に経営者にすすめている三段階の行動リストを紹介します。小さく始めて、確実に自分のものにしてください。

  1. 今日の終わりに5分だけ、手帳やメモに「今日、自分がコントロールできなかったことで消耗したのは何か」を書き出してください。書くだけでいい。評価も解決策も不要です。「見える化」することが、消耗のパターンに気づく第一歩です。
  2. 今週、判断に迷う場面が来たら「これは自分がコントロールできることか?」と一度立ち止まる習慣を試してください。コントロールできないと判断したら、そこへの執着を手放す。コントロールできると判断したら、今日何を変えるかだけに集中する。この二択の問いを、意思決定の前に挟むだけで、思考の質が変わってきます。
  3. 毎朝2〜3分、「今日起こりうる困難」を一つだけ静かに想像するネガティブ・ビジュアライゼーションを習慣化してください。手帳の1行メモでも、通勤中の心の中の問いかけでも構いません。1ヶ月続けると、想定外の出来事に対する感情の揺れ幅が明らかに小さくなります。経営者としての「動じない軸」は、こうした小さな習慣の積み重ねでつくられます。

この記事のまとめ(Q&A)

『ゆるストイック』とは、どんな本ですか?

佐藤 航陽氏が著した、古代ギリシャ・ローマ生まれのストア哲学を現代のビジネスパーソンが実践できる形にした一冊です。タイトルの「ゆる」は、自分を追い込むのではなく、日常の中でしなやかに哲学を使うというニュアンスを表します。難解な議論は少なく、日常の行動レベルで何をするかに焦点を当てた実践書です。経営者のメンタル面での判断の質を支える内容として紹介しています。

経営者が他人や出来事に振り回されないためには?

すべての出来事を「自分がコントロールできること」と「できないこと」に分け、できることにだけ力を注ぎます。これがストア哲学の「二分法の基準」です。たとえば受注できなかったとき、顧客がなぜ選ばなかったかは自分の領域の外にあります。一方、提案をどう変えるか、次に何を準備するかは自分の領域です。「受け入れる」は諦めることではなく、消耗していたエネルギーをコントロールできることへ戻すという意味です。

心の安定を保つために、経営者が毎日できる習慣は?

記事では三つの行動を挙げています。一つ目は、一日の終わりに5分、コントロールできないことで消耗した内容をメモに書き出すことです。二つ目は、判断に迷ったときに「これは自分がコントロールできることか?」と一度立ち止まることです。三つ目は、毎朝2〜3分、その日に起こりうる困難を一つ静かに想像するネガティブ・ビジュアライゼーションです。いずれも小さく始めて続けることが前提です。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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