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『起業は意志が10割』(守屋 実)
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「いつかは起業したい。でも、まだスキルが足りない。資金も足りない。もう少し準備してから——」
この言葉、あなたも一度は自分に言い聞かせたことがあるのではないでしょうか。あるいは、今まさにそう思っている最中かもしれません。
私はこれまで100社以上の中小企業・個人事業主の経営者に伴走支援をしてきました。そのなかで気づいたことがあります。事業を立ち上げた人と、立ち上げられなかった人の差は、スキルでも資金でもなかった——ほとんどのケースで、それは「意志の強さ」でした。
守屋実氏の著書『起業は意志が10割』は、その直感を鮮やかに言語化してくれた一冊です。著者は日本マクドナルド、ミスミを経て、スタートアップの立ち上げに30社以上関わってきた連続起業家。そのリアルな経験から紡ぎ出される言葉には、ビジネス書にありがちな「成功の法則」ではなく、起業という行為の本質が詰まっています。
この記事では、本書の核心をひも解きながら、現場で経営者を見てきた私えだもんの視点を交えて、「踏み出せない人」が覚悟を作るための道筋をお伝えします。
「準備が整ってから」は永遠に来ない——起業を阻む思考の罠
📝 えだもんの現場視点
支援先の建設業の社長が、独立を「あと1年待とう」と言い続けて3年が経ったとき、私はこう聞きました。「1年後に何が変わりますか?」——沈黙が答えでした。結局その方は翌月に独立し、初年度から黒字を達成しました。踏み出せなかった3年間、スキルも資金も大きくは変わっていなかった。変わったのは「もう待てない」という意志の臨界点だけでした。
スキルと資金は「あれば安心」ではなく「なくても始められる」
本書の冒頭で守屋氏はこう断言します。「起業に必要なのは、スキルでも資金でもなく、意志だ」と。これを読んで「精神論か」と思う方もいるかもしれません。しかし、著者が言いたいのは根性論ではありません。
スキルは、起業してから磨かれる。資金は、意志があれば調達できる。しかし意志だけは、外部から調達することができない——だからこそ、それが10割なのだ、という構造的な主張です。
多くの人が「準備が整ったら起業する」と考えます。しかし守屋氏の視点では、この発想自体が罠です。準備が整う日は来ない。なぜなら、起業した後に直面する課題は、起業する前には想像すらできないからです。
「リスクを取らないこと」が最大のリスクになる時代
本書では、起業しないことのリスクについても鋭く言及されています。会社員として安定を求めることが、長期的に見て最もリスクの高い選択になりうる時代。終身雇用の幻想が崩れ、AIが多くの職域を侵食するなかで、「自分で事業を作る力」こそが最大のリスクヘッジだと著者は言います。
これは脅しではなく、現実の観察から来た冷静な指摘です。私が支援してきた経営者たちの多くも、「もっと早く踏み出せばよかった」と振り返ります。逆に、後悔した人を私はほとんど見ていません。
意志とは何か——守屋流「覚悟の解剖学」
意志は感情ではなく、選択の積み重ねである
本書の白眉は、「意志」という曖昧な概念を具体的に分解しているところです。守屋氏は、意志を「やりたいという気持ち」のような感情論として語りません。意志とは、「何を選び、何を捨てるか」という日々の選択の積み重ねだと定義します。
起業家は、安定を捨て、睡眠時間を削り、人間関係のリスクを取る。その一つひとつの選択が「意志」の実体です。逆に言えば、何も捨てていないなら、意志はまだ本物ではない——この言葉は、起業を考えているすべての人への静かな問いかけです。
「Why」が弱い起業は必ず折れる
守屋氏が繰り返し強調するのが、「なぜ起業するのか」という問いの深さです。「稼ぎたい」「自由になりたい」という動機を否定はしないが、それだけでは事業が苦しくなったときに意志が折れると著者は言います。
本書では、強い意志の源泉として「原体験」と「使命感」を挙げています。自分がかつて解決できなかった課題、社会に対して感じた理不尽——そこに根ざした「Why」こそが、困難を乗り越える燃料になる。
起業前に問うべきは「何をするか」ではなく「なぜするのか」——この問いに向き合うことが、覚悟を作る第一歩です。
ゼロから事業を立ち上げる——守屋氏が語る「小さく始める」の真意
完成品を目指さず、仮説を売れ
「起業はスモールスタートで」という言葉は今や常識のように語られますが、本書ではその本質がより鋭く説明されています。守屋氏が言う「小さく始める」は、リスクを減らすためではありません。仮説を早く市場で検証するためです。
完成したサービスを作ってから売るのではなく、未完成でも「売れるかどうか」を先に確認する。お金を払ってくれるお客さんが1人いれば、それはもう事業の芽です。この発想の転換が、起業のハードルを劇的に下げます。
「最初の顧客」を作ることが、覚悟を本物にする
本書が特に印象的なのは、「最初の顧客を作ることが、起業家としての自信を生む」という指摘です。どんなに準備しても、お金をもらう前は起業家ではない。しかし、誰か1人に価値を提供してお金をいただいた瞬間、人は変わる。
私が支援してきた経営者の中にも、副業で最初の1件を受注した瞬間に「本当にやれると思った」と話す方が何人もいました。意志は、行動の前に作るものではなく、小さな行動の中から育てていくもの——本書はそのことを体験ベースで教えてくれます。
起業家に必要な「人・金・情報」の集め方——意志があれば引き寄せられる
意志のある人間に、人は集まる
「ネットワークがない」「人脈がない」という声をよく聞きます。しかし守屋氏の経験則は明確です。本気の意志を持ち、それを言葉にして発信し続けた人間のもとに、人は自然と集まると。
これは精神論ではなく、人間の行動原理に基づく話です。人は、覚悟を決めた人間の周りに集まりたがる。迷っている人間の周りには、同じように迷っている人間しか集まらない。だからこそ、まず覚悟を言語化して外に出すことが先決なのです。
資金は「事業の必然性」から生まれる
本書では資金調達についても現実的な視点が語られています。「お金がないから起業できない」という人の多くは、資金が必要な理由を自分自身が信じ切れていないケースが多いと著者は指摘します。
事業の必然性が明確で、解決すべき課題が鮮明で、それを自分がやる理由が語れるなら——お金は後からついてくる。補助金、融資、投資家、クラウドファンディング。資金調達の手段は今や多様にある。問題は手段ではなく、「この事業をやり遂げる」という意志の強度です。
私自身、中小企業診断士として補助金支援や資金繰り相談を数多く手がけてきましたが、資金を引き出せる経営者と引き出せない経営者の違いは、事業への確信の深さに尽きると実感しています。
「意志の地図」を描く——本書が教える覚悟の作り方・実践編
📝 えだもんの現場視点
補助金申請の支援をしていると、採択される事業者とされない事業者の差が鮮明に見えます。書類の完成度より、「この事業を絶対にやり遂げる」という意志の強度が、審査員に伝わるかどうか。資金繰りの場面でも同じです。融資が通る経営者は、数字の前に「なぜこの事業なのか」を自分の言葉で語れる人。意志が弱い事業計画は、どんなに数字を整えても薄く見えます。
紙に書く。声に出す。人に宣言する
本書の後半では、意志を行動に変えるための具体的な方法が紹介されています。守屋氏が勧める最初のステップは極めてシンプルです——「紙に書く」こと。
なぜ起業したいのか。何を解決したいのか。誰のために。どんな世界を作りたいのか。これらを文章にして、声に出して読む。そして信頼できる人に宣言する。この3ステップが、意志を「頭の中の夢」から「現実の計画」へと変換する最初の装置です。
書くことは考えることであり、宣言することは退路を断つこと。この単純な行為が、覚悟を作る実践的な方法として機能します。
失敗を「学習コスト」として再定義する
起業を躊躇させる最大の感情のひとつが「失敗への恐れ」です。本書では、守屋氏自身の失敗体験を交えながら、失敗の再定義が語られます。
失敗は損失ではなく、学習コストである。そして、起業しないまま過ごした時間もまた、機会損失というコストである——この視点の転換は、多くの読者にとって「起業しない言い訳」を崩す強力なメッセージになるはずです。
大切なのは、失敗しないことではなく、失敗から立ち直る速度と、そこから得た知恵を次に活かす意志を持ち続けること。守屋氏はそれを、自身の30社以上の起業支援経験から語ります。
まとめ——意志は「持つもの」ではなく「育てるもの」
『起業は意志が10割』は、「やる気を出せ」という精神論の本ではありません。意志の構造を解剖し、覚悟の作り方を具体的に示した、実践的な起業論です。
守屋氏のメッセージを一言で言うなら——「意志があれば、スキルも資金も後からついてくる。しかし意志だけは、自分でしか生み出せない」ということです。
スキルが足りないと感じているなら、まず意志を固めてください。資金が足りないと悩んでいるなら、まず「なぜやるのか」を言語化してください。準備が整ってから——という言葉を自分に言い聞かせているなら、その言葉が最大の罠かもしれません。
起業は、覚悟が先で、準備は後でいい。本書はそのことを、著者の全経験を賭けて教えてくれます。
📝 えだもんの現場視点
14年で2,000冊以上のビジネス書を読んできた私が、本書を特別だと感じる理由は「再現性のある覚悟の作り方」が書かれているからです。多くの起業本は成功者の結果を語りますが、守屋氏は「どうやって意志を育てたか」のプロセスを語る。選書メディア「本で解く」で紹介する本は「課題を解く力がある本」だけ。この一冊は、起業を迷うすべての人の背中を、論理で押してくれます。
📝 この記事を書いた人
枝元宏隆(えだもん)/中小企業診断士・レフティ合同会社代表
九州を中心に100社以上の経営者に伴走支援。補助金・資金繰り・法人化・事業承継を専門とする伴走型CFO。14年でビジネス書2,000冊超読破。選書メディア「本で解く(hondetoku.jp)」運営。
明日の一手
本を読んで「よかった」で終わらせないために、今日から動ける具体的なアクションを3つ用意しました。小さな一歩が、意志を本物にしていきます。
- 「なぜ起業したいのか」をA4用紙1枚に書き出す。条件や準備状況は一切書かない。「自分が解決したい課題」と「それをやる理由(原体験)」だけを言葉にする。完璧でなくていい。10分でいいので、今日中に手を動かしてみてください。
- 書き出した「なぜ起業したいのか」を、信頼できる人1人に口頭で話してみる。家族でも友人でも同僚でも構いません。声に出して人に話すことで、自分の意志の「本気度」が自分自身にも見えてきます。反応を気にするより、「言葉にできたかどうか」を確認することが目的です。
- 週に1回、「自分の事業仮説ノート」を更新する習慣を作る。やりたい事業、ターゲット顧客、自分がそれをやる理由——この3点を毎週見直し、書き加えていく。1ヶ月後には、あなたの意志の解像度が格段に上がっているはずです。守屋氏が言う「意志は育てるもの」を、このノートで体感してください。
この記事のまとめ(Q&A)
起業にスキルや資金が足りないときはどうすればいい?
『起業は意志が10割』の著者・守屋実氏は、起業に必要なのはスキルでも資金でもなく意志だと述べています。スキルは起業してから磨かれ、資金は事業の必然性と意志があれば調達の道が開けるという考え方です。準備が整う日を待つより、先に「なぜ起業するのか」を固めることが出発点になります。起業後に直面する課題は起業前には想像しにくいため、準備を完璧にしてから始めるという発想自体が踏み出せなくなる原因になりえます。
起業における「意志」とは何?
本書では、意志は「やりたい」という感情ではなく、何を選び何を捨てるかという日々の選択の積み重ねだと定義されています。安定や睡眠時間、人間関係のリスクを引き受ける一つひとつの選択が意志の実体です。意志を支えるのは「なぜ起業するのか」という問いの深さで、原体験や使命感に根ざした動機は、事業が苦しくなったときの燃料になるとされています。
起業の覚悟を作るには何から始めればいい?
最初の一歩は、起業したい理由を紙に書くことです。解決したい課題と、それをやる理由(原体験)だけを書き出し、声に出して読み、信頼できる人に宣言します。小さく始めて最初の顧客から対価をいただく経験も、覚悟を本物にするとされています。記事では、週1回「事業仮説ノート」を更新して意志を育てる習慣も紹介しています。
この記事の根拠と執筆背景
執筆者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。
執筆・更新日
執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

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