やりたいことが見つからず、強みを仕事に活かせていないあなたへ——『苦しかったときの話をしようか』に学ぶ強みを軸にキャリアを設計する方法

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『苦しかったときの話をしようか ビジネスマンの父が我が子のために書いた「働くことの本質」』(森岡毅)
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「自分には何ができるんだろう」「このまま今の仕事を続けていていいのか」——そんな問いが頭をよぎったことはないだろうか。

経営者や個人事業主であれば、むしろこの問いはより切実だ。会社員なら「組織の歯車」として役割が与えられるが、自分でビジネスを動かす立場になると、「自分の強みとは何か」「それをどう事業に活かすか」という問いに、誰も答えを出してくれない。

私(えだもん)は中小企業診断士として九州を中心に100社以上の経営者に伴走してきた。そのなかで繰り返し目にするのが、「なんとなく始めた事業が軌道に乗らない」「自分の強みが何なのかよくわからないまま走り続けている」という経営者の姿だ。

そのたびに私が手渡したくなる一冊が、本書『苦しかったときの話をしようか』(森岡毅著)である。USJをV字回復させたマーケター・森岡毅が、就活に悩む娘のために書き下ろした「父から子への手紙」が原形となったこの本は、キャリア論を超えた「自分を武器にする哲学書」だ。

なぜ「やりたいこと」を探してもたどり着けないのか

📝 えだもんの現場視点

支援先の建設業の社長(50代)が「俺は現場が好きなのか、経営が好きなのか、正直わからなくなってきた」と話してくれたことがある。話を深掘りすると、彼が最も生き生きするのは「複雑な工程を段取りよく整理して、職人たちを動かすとき」だとわかった。典型的なTとLの複合タイプ。それを言語化した途端、「自分が事業承継で何を残すべきか」が見えてきたと言っていた。

「情熱」より先に「強み」を見るべき理由

多くの人は「やりたいことを見つければ、仕事がうまくいく」と信じている。しかし森岡氏はこの順序に異議を唱える。

本書の核心にある主張はシンプルだ。「人は自分が得意なことに情熱を感じる」。つまり、やりたいことが先にあるのではなく、自分が自然にうまくできることを積み重ねていくうちに、情熱が後からついてくる、というのである。

この視点は、中小企業経営者にとって特に重要だ。「好きなことを仕事にしよう」という言葉に引っ張られ、強みとは別の方向へ事業を展開してしまうケースを、私は何度も見てきた。結果として、努力は続かず、売上も伸びない。情熱は「見つけるもの」ではなく、「育てるもの」なのだ。

「T・C・L」の3タイプで自分を分類する

本書が提示する最も実践的なフレームワークのひとつが、人の強みを3つのタイプに分類する考え方だ。

  • T(Thinking)思考型:考えること・分析すること・戦略を立てることに喜びを感じるタイプ
  • C(Communication)コミュニケーション型:人と関わること・影響を与えること・チームを動かすことに喜びを感じるタイプ
  • L(Leadership)リーダーシップ型:目標に向かってチームや組織を牽引し、結果を出すことに喜びを感じるタイプ

このT・C・Lの分類は、単なる性格診断ではない。「自分の強みをどの方向へ尖らせるか」を決めるための羅針盤だと森岡氏は言う。大切なのは、自分がどのタイプに「完璧に当てはまるか」ではなく、どのタイプの行動をとるときに「時間を忘れて没頭できるか」を観察することだ。

「強みの核」を言語化する3つの問い

「好き・得意・苦にならない」の交差点を探す

森岡氏は本書のなかで、自分の強みを特定するための問いかけを丁寧に示している。それは次の3つの視点だ。

  1. 何をしているときに時間を忘れるか(没頭できるもの=得意の種)
  2. 他人に褒められることが、自分では「たいしたことない」と感じることは何か(無意識にできている=真の強み)
  3. 失敗しても「またやりたい」と思えることは何か(情熱の芽)

この3つの問いの答えが重なる領域こそ、「強みの核」だ。多くの経営者は、これをいきなり「事業の核」として整理しようとするが、まず「自分個人の資質」として言語化することが先決だと本書は教える。

「過去の自分」を分析することで強みは浮かび上がる

本書で森岡氏が強調するもうひとつの手法が、過去の経験を掘り起こして強みを発見する「後ろ向きの自己分析」だ。

未来に向けて「これを強みにしよう」と決めるのではなく、これまでの人生で「なぜかうまくいった経験」「労せずして人から感謝された場面」を丁寧にたどることで、自分が既に持っている強みが見えてくるという。

私自身、この手法を使って自分のキャリアを振り返ったとき、「複雑な情報を整理して、相手が動けるように言語化すること」が一貫して得意だったと気づいた。補助金申請の支援も、資金繰り改善の提案も、本質はこの一点に集約されていた。強みは新たに作るものではなく、すでに自分のなかにある。

「苦しさ」はキャリアの失敗ではなく、設計の材料だ

📝 えだもんの現場視点

100社以上を見てきて気づくのは、業績が安定している経営者ほど「自分の強みの言語化」が明確だということだ。逆に資金繰りが苦しい状態が続いている会社の多くは、経営者が「なんでも自分でやらなければ」と動いており、強みではなく弱みの補完に時間を使っている。強みに集中することは、経営効率を上げることと本質的に同じだと、私は現場で繰り返し確認している。

苦しいとき、人は本当の自分と向き合っている

本書のタイトルにある「苦しかったとき」という言葉には、深い意味がある。森岡氏自身、P&Gからの転職直後やUSJの改革期に、極限の苦しさを経験している。しかし彼はそれを「失敗」と捉えなかった。

苦しみは、自分が何に向いていて、何に向いていないかを教えてくれる最強のフィードバックだ、と彼は言う。苦しいときこそ、「なぜ苦しいのか」を分析することで、自分の価値観・強み・弱みが浮き彫りになる。

経営者にとってこれは非常に重要な視点だ。事業が思うようにいかない時期に「もう向いていないのかもしれない」と考えるのではなく、「この苦しさは何を教えているのか」という問いを立てることができれば、次の一手が見えてくる。

「弱みを克服する」より「強みに集中する」を選べ

日本の教育や組織文化では「弱みを補う」ことが重視されがちだ。しかし森岡氏は明確に言い切る。弱みを平均点まで引き上げることに時間を使うより、強みをとことん尖らせることに集中せよと。

これは中小企業経営にそのまま応用できる原則だ。経営資源が限られているなかで、弱みの補完に精力を注いでいる経営者は多い。しかし市場で戦う武器になるのは、「弱みをカバーした平均点の自分」ではなく、「強みが突き抜けた自分」だ。支援先で実際に業績が伸びている会社は、ほぼ例外なく経営者の強みが事業の核に直結している。

USJ再建の哲学を、経営者の現場に接続する

森岡毅が示す「勝てる戦略」の本質

森岡氏はマーケターとして、USJの来場者数をV字回復させた人物だ。その手法は本書でも随所に語られているが、根底にある哲学はひとつに集約される。

「自分(または自社)が勝てる土俵を、自ら設計せよ」

市場全体で戦うのではなく、自分の強みが最大限に発揮される領域にリソースを集中させる。これはUSJの改革でも行われたことであり、個人のキャリア設計でも同じ原理が働く。中小企業の経営においても、「全方位で競合と戦う」のではなく、自社の強みが活きるニッチ領域に特化することが、生き残りの最短ルートだと私は確信している。

「ブランドとしての自分」を育てる思考法

本書のもうひとつの重要な概念が、「自分をブランドとして設計する」という視点だ。森岡氏は「あなた自身がひとつのブランドである」と言い、ブランドとは「一貫したイメージを持って、他と差別化された存在」のことだと定義する。

これは個人事業主や中小企業の経営者にとって、非常に実践的な示唆だ。「何屋さんかわからない」「特徴がない」と言われる事業者は、強みを軸にしたブランド設計ができていないことがほとんどだ。自分の強みをT・C・Lで分類し、それを事業のポジショニングに落とし込むことで、「選ばれる理由」が明確になる

本書を読んだ後に変わること——経営者としての「問いの質」

📝 えだもんの現場視点

私自身、14年で2,000冊以上のビジネス書を読んできたが、本書は「読んだ翌日から自問が変わる」数少ない一冊だ。読了後、私は自分のT・C・L分類を改めて書き出し、「思考整理と言語化」が自分の最強の武器だと再確認した。その気づきが「本で解く」という選書メディアの立ち上げにも直結している。本は答えを与えてくれるのではなく、問いの質を上げてくれるものだと改めて感じた。

「何をするか」より「誰としてするか」を問う

この本を読んで最も変わるのは、日々の意思決定における「問いの立て方」だと私は思う。多くの経営者は「次に何をすべきか」という問いを立てる。しかし本書は、その前に「自分はどんな人間として、この仕事をしているのか」という問いを立てることを促す。

これは哲学的に聞こえるが、実は極めて実務的だ。「強みを軸に行動しているか」を常に問い続けることは、散漫な事業展開を防ぎ、エネルギーが分散するのを防ぐ。リソースが限られた中小企業こそ、この問いが経営の質を決める。

子を持つ経営者に特別に刺さるメッセージ

最後に触れておきたいのが、本書の「温度」だ。これはビジネス書でありながら、父親が娘のために書いた手紙でもある。そのため、言葉の一つひとつに切実な愛情が宿っている。

子を持つ経営者が読むと、「自分の子どもに何を伝えたいか」という視点が加わり、本書のメッセージがさらに深く刺さる。自分がどう生きるかと、次世代に何を渡すか——この両方を同時に考えさせてくれる稀有な一冊だ。事業承継を見据えている経営者には、特に強くすすめたい。

100社以上の経営者と向き合ってきた私が確信するのは、強みを言語化できた経営者と、できていない経営者とでは、5年後の事業の姿が大きく変わるということだ。本書はその言語化の旅を、最も誠実に伴走してくれる一冊だと思っている。

明日の一手

まず一歩を踏み出すことが大切だ。頭で理解するだけでなく、手を動かすことで「強みの輪郭」は初めてくっきりと見えてくる。

  1. 紙とペンを用意して、「これまでの人生で、労せず人から感謝されたこと・褒められたこと」を10個書き出してみよう。時間は15分で十分。「たいしたことない」と感じることほど、実は強みの核心に近い。
  2. 本書のT・C・L分類(思考型・コミュニケーション型・リーダーシップ型)を使って、自分がどのタイプに最も近いかを仮決めしよう。そのうえで、「今週の仕事のなかでそのタイプが活きていた場面」をひとつ探して書き留めておく。仮決めで構わない。観察することが目的だ。
  3. 毎週末5分だけ「今週、強みが活きた場面」と「強みとは逆の方向で消耗した場面」をメモする習慣をつけよう。1ヶ月続けると、自分の強みのパターンと、エネルギーが漏れている業務が明確になる。これが経営資源の再配分と、事業の「選択と集中」の第一歩になる。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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