部下や顧客との対話が空回りする経営者へ——『人は聞き方が9割』に学ぶ、安心と信頼を生む聞き方を手に入れる

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『人は聞き方が9割』(永松 茂久)
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「ちゃんと話しているつもりなのに、なぜか伝わらない」「スタッフが本音を言ってくれない」「商談でいくら説明しても、相手の表情が晴れない」——経営者として、こんな感覚を抱いたことはないでしょうか。

多くの経営者は、「伝え方」や「話し方」を磨こうとします。プレゼン技術を学び、言葉を選び、説得力のある論理を組み立てる。しかし、どれだけ話し方を磨いても、対話がうまくかみ合わない——その根本原因は、実は「聞き方」にあることがほとんどです。

永松茂久氏の著書『人は聞き方が9割』は、累計100万部を超えるベストセラー。人間関係の本質は「話す力」ではなく「聞く力」にある、という至ってシンプルなメッセージを、実践的かつ具体的に届けてくれる一冊です。

中小企業診断士として100社以上の経営者に伴走してきた私(えだもん)も、この本を読んで「自分がやっていた支援の核心は、これだったのか」と腑に落ちた経験があります。今回は、経営者・個人事業主・起業家の皆さんに向けて、この本のエッセンスと現場での実践を結びつけてお伝えします。

なぜ「聞き方」が経営者に最も必要なスキルなのか

📝 えだもんの現場視点

支援先の建設業の社長から「スタッフが何も言わなくなった」と相談を受けたことがあります。話を聞いてみると、社長自身は「いつでも相談に来い」と言っているのに、実際の面談ではほぼ一方的に指示を出していました。「聞いているつもり」と「本当に聞いている」の差が、組織の沈黙を生んでいたのです。この本を渡したところ、3ヶ月後には「スタッフが自分から話しかけてくるようになった」と報告がありました。

経営者は「話すプロ」になりすぎている

経営者という立場は、常に何かを「発信」する役割です。方針を伝える、数字を説明する、ビジョンを語る、交渉する——仕事のほとんどが「話すこと」で成り立っているように見えます。だからこそ、多くの経営者は無意識のうちに「自分が話す場」として会話をとらえてしまいます。

永松氏はこの点を鋭く指摘しています。人は誰しも「自分の話を聞いてほしい」という根源的な欲求を持っている。それを満たしてくれる人のそばに、人は集まる。逆に言えば、どれだけ正論を語っても、相手の話を聞いていない人間は信頼されない、というわけです。

「聞く」ことで生まれる心理的安全性

本書の中で特に印象的なのが、「聞くことは、相手に安心を与える行為だ」という言葉です。人は「ちゃんと聞いてもらえている」と感じたとき、はじめて本音を語ります。スタッフが経営者に本音を言わない、顧客が本当の悩みを打ち明けてくれない——その背景には、「この人に話しても大丈夫か」という不安があります。

聞き方を変えることは、単なるコミュニケーション技術の改善ではなく、職場や商談の場における心理的安全性の構築そのものです。これは、現代の経営において、業績向上と直結するテーマでもあります。

本書が教える「聞き上手」の3つの基本原則

原則①:まず「聞く姿勢」を整える

永松氏が最初に強調するのは、テクニックより先に「姿勢」だということです。体をちゃんと相手に向ける、スマホを置く、目を見る——当たり前のことのようで、会議中にパソコンを開いたまま部下の報告を聞く経営者は少なくありません。

本書では、「聞いているふりをしている人」と「本当に聞いている人」は、相手には必ず伝わる、と書かれています。人間は非言語の情報に敏感で、目線や体の向き、わずかな表情の変化から「この人は本当に聞いてくれているか」を瞬時に判断します。だからこそ、まず身体レベルで「聞く体制」を整えることが出発点になります。

原則②:「相づち」と「うなずき」で相手を乗せる

本書が特に実践的なのは、相づちの具体的な使い方まで解説している点です。永松氏は相づちを「オウム返し」「感嘆詞」「共感の言葉」の3種類に分け、それぞれをどのタイミングでどう使うかを丁寧に説明しています。

たとえば、「それで?」「なるほど」「それはすごい」という一言が、相手の話をどれだけ引き出すか。逆に、無言や「うーん」だけでは相手は話す気をなくしてしまいます。相づちはリアクションではなく、コミュニケーションの燃料——この視点を持つだけで、対話の質は大きく変わります。

原則③:「否定しない」ことが最大のテクニック

本書の中でえだもんが最も「刺さった」のが、この原則です。人は否定された瞬間に心を閉じる。これは脳の防衛反応であり、意識でコントロールできないレベルの反応です。

経営者がよくやりがちなのが、部下のアイデアや相談に対して「でも」「それは違う」「前も言ったけど」と即座に返してしまうこと。正論であっても、否定から入ると相手は「次から言うのをやめよう」と学習してしまいます。まず受け止め、認め、そのうえで意見を伝える——この順番を守るだけで、部下からの報告・相談の量と質は劇的に変わります。

経営の現場で「聞き方」が変えた3つの場面

📝 えだもんの現場視点

100社以上を見てきて確信しているのは、業績が安定している経営者ほど「聞き上手」だということです。売上や財務の数字を見る前に、経営者が従業員や顧客の声をどれだけ拾えているかを確認します。聞けていない経営者の会社では、問題が表面化したときにはすでに深刻化していることが多い。聞く力は、リスク管理の観点からも経営者に不可欠なスキルだと現場を通じて実感しています。

場面①:スタッフとの1on1ミーティング

私が支援先の経営者にまず勧めるのが、月1回の1on1ミーティングの導入です。しかし多くの場合、最初は経営者が8割しゃべり、スタッフは2割しか話さない、という状況が生まれます。

この本を読んだある飲食店の社長は、1on1の場で「自分から話すのをやめ、ひたすら聞く」という実験をしてみました。すると、それまで「特にないです」と答えていたスタッフが、「実は最近こういうことが気になっていて…」と次々に本音を話し始めたと言います。聞き方を変えるだけで、組織の情報量が増えるのです。

場面②:顧客との初回面談・ヒアリング

営業や新規顧客との初回面談でも、「聞き方」の差は成約率に直結します。自社のサービスを一方的に説明しても、顧客は「売られる」と感じて心を閉じます。一方、顧客の悩みや状況をじっくり聞き、「この人はわかってくれている」と感じさせた経営者は、顧客から「ぜひお願いしたい」と言われるようになります。

本書でも触れられていますが、人は「話を聞いてもらった相手」に対して好意と信頼を抱くという心理は、営業においてもコンサルティングにおいても変わりません。聞き方は最強の営業ツールでもあるのです。

場面③:事業承継・後継者との対話

私が専門とする事業承継の現場では、「聞き方」の問題が特に顕著です。先代経営者が「自分のやり方が正しい」と話し続け、後継者が本音を言えないまま引き継ぎが進んでいく——このパターンがうまくいかないことは、数多くの現場を見てきた経験から断言できます。

後継者が「自分の言葉を聞いてもらえている」と感じたとき、はじめて主体的に経営に向き合い始めます。先代にとって「聞くこと」は弱さではなく、後継者の主体性を引き出すリーダーシップの発揮です。

「聞けない経営者」が陥りがちな3つの罠

罠①:「アドバイスモード」から抜け出せない

経営者は問題解決が仕事です。だからこそ、相手が話し終わる前に「それはこうすればいい」と解決策を出してしまいがちです。永松氏はこれを「アドバイスモード」と呼び、相手が求めているのは多くの場合、解決策より「共感」だと指摘します。

まず「それは大変だったね」「そういう状況だったのか」と受け止める。そのあとで「じゃあ一緒に考えよう」と進む。この順番を変えるだけで、相手の受け取り方はまったく異なります。

罠②:「忙しさ」を理由に聞く時間を削る

「うちは忙しいから、じっくり話を聞く時間がない」——この言葉を経営者からよく聞きます。しかし本書が言うように、聞かないことで生まれるすれ違い・ミス・離職・顧客離れのコストは、話を聞く時間の何倍もかかります。聞く時間への投資対効果は、あらゆる経営施策の中でも最高水準と言っても過言ではありません。

罠③:「聞いているつもり」になっている

最も気づきにくい罠が、これです。「自分はちゃんと聞いている」と思っている経営者ほど、実は頭の中で次の反論を考えていたり、別のことを考えながら生返事をしていたりします。永松氏はこれを「聞いているふり」と呼び、相手には確実に伝わっていると警告しています。本当の意味で聞くとは、評価・判断・反論を一時停止して、相手の言葉をそのまま受け取ることです。

この本から経営者が得られる最大の価値

📝 えだもんの現場視点

事業承継の支援をしていると、先代と後継者の間に「対話の断絶」が起きているケースに頻繁に遭遇します。先代が「自分の経験を伝えなければ」と話し続ける一方、後継者は「聞いてもらえない」と感じて黙り込む。あるケースでは、先代に『人は聞き方が9割』を読んでもらい、後継者の話をひたすら聞く場を設けました。その後、後継者が自ら新事業の提案書を持ってきたのを見て、先代が涙ぐんでいたのが印象に残っています。

「人が集まる経営者」になるための本質

永松氏は本書の中でこう語っています。「人は、自分の話をちゃんと聞いてくれる人のそばに集まる」。これは、従業員の定着・顧客との長期関係・パートナーとの信頼構築、すべてに通じる原則です。

中小企業経営者にとって、最大の経営資源は「人」です。優秀なスタッフが集まり、長く働いてくれる組織を作ること、顧客がリピートし口コミで広がっていく事業を育てること——その根底にあるのは、実は経営者の「聞き方」です。

読みやすさと即実践性が両立した一冊

この本の特長は、内容の深さと読みやすさが高いレベルで両立している点です。ビジネス書になじみのない方でも1〜2時間で読み切れますが、書かれていることは非常に本質的。14年間で2,000冊以上のビジネス書を読んできた私の視点でも、「薄く見えて実は深い」という意味で、繰り返し読む価値のある一冊です。

特に、実践的なワークや具体的なセリフ例が豊富なので、「今日から使える」レベルで行動に落とし込めます。読み終えた翌日から、スタッフや顧客との関わり方が変わる——そういう本です。

えだもんからの総評

100社以上の経営者に伴走してきて、組織がうまくいっている会社とそうでない会社の差を一言で表すなら、「経営者がちゃんと聞いているかどうか」です。業種も規模も関係ない。聞ける経営者のもとには、人が集まり、情報が集まり、やがて業績がついてくる。

『人は聞き方が9割』は、その本質を100万人以上に届けた本です。もしあなたが「対話が空回りしている」「スタッフが本音を言わない」「顧客との関係が薄い」と感じているなら、今すぐこの一冊を手に取ってください。話し方を変える前に、まず聞き方を変える——それが、経営を変える最短ルートです。

📖 この記事で紹介した書籍

『人は聞き方が9割』(永松 茂久)
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明日の一手

知識は行動に変えてはじめて意味を持ちます。今日から3つのステップで「聞き方」を経営に取り入れてみましょう。

  1. 今日の会話で「スマホ・パソコンを置いて、体を相手に向ける」を1回実践する。次にスタッフや顧客と話すとき、デバイスを閉じて目を見て聞くだけでいい。たったこれだけで、相手の反応が変わることを体感してください。
  2. 今週中に、スタッフ1人と15分の「聞くだけ面談」を設ける。テーマは「最近、仕事で気になっていることはある?」の一言だけ。自分からアドバイスや意見を言うのを我慢して、相づちと「それで?」だけで会話を続けてみましょう。相手がどれだけ話してくれるか、実験のつもりで試してみてください。
  3. 1ヶ月後を目標に、月1回の1on1ミーティングを制度化する。最初の15分は経営者が「聞く」と決めておく。記録をつけて、スタッフから出てきた言葉・課題・アイデアを蓄積していく。この習慣が定着した頃には、組織の情報量と信頼の質が明らかに変わっていることを実感できるはずです。

この記事のまとめ(Q&A)

経営者にとって「聞き方」が重要なのはなぜ?

経営者は方針の説明や交渉など、話す場面が仕事の中心になりやすく、会話を「自分が話す場」と捉えがちです。『人は聞き方が9割』では、人は自分の話を聞いてくれる人のそばに集まると述べられています。ちゃんと聞いてもらえていると感じたとき、スタッフや顧客は本音を話しやすくなります。聞き方は、職場や商談での心理的安全性をつくる土台になります。

聞き上手になるための基本原則とは?

記事では3つの原則を紹介しています。1つ目は、スマホを置いて体を相手に向けるなど、聞く姿勢を整えることです。2つ目は、オウム返し、感嘆詞、共感の言葉といった相づちとうなずきで、相手の話を引き出すことです。3つ目は、否定から入らず、まず受け止めて認めてから自分の意見を伝えることです。

部下が本音を話してくれる職場にするには?

まず、相手が話し終わる前に解決策を出す「アドバイスモード」を止め、共感を先に示します。そのうえで、スタッフ1人と15分の「聞くだけ面談」を設けるところから始めます。面談では意見を我慢し、相づちと「それで?」で会話をつなぎます。これを月1回の1on1に定着させ、最初の15分は経営者が聞く側に回ると決めておく方法が紹介されています。

この記事の根拠と執筆背景

執筆者について

枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。

執筆・更新日

執筆: 2026-06-16 / 最終更新: 2026-06-16

えだもん (中小企業診断士)

中小企業診断士/連続起業家。21歳で起業、以来14年でビジネス書2,000冊超を読破。実務で効いた本だけを紹介する「課題突破の選書エージェント」運営者。

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