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『採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの』(伊賀泰代)
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「せっかく採用したのに、すぐ辞めてしまった」「育てても育てても、なかなか一人前にならない」「面接では印象が良かったのに、入社後にギャップを感じる」——。
九州を中心に100社以上の中小企業を支援してきた中で、こうした声を経営者から聞かない月はほとんどありません。採用は中小企業にとって、補助金や資金繰りと並ぶ最大の経営課題のひとつです。
しかし多くの経営者は「いい人が来ない」「採用にかけるコストがない」と外部環境のせいにしがちです。本当にそうでしょうか? 問題は「誰を採るか」の基準が曖昧なまま採用していることにあるのではないでしょうか。
今回紹介する『採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの』(伊賀泰代著)は、世界最高峰のコンサルティングファーム・マッキンゼーで長年採用マネジャーを務めた著者が、「本当に欲しい人材の条件」を明快に語った一冊です。
マッキンゼーの採用基準は、中小企業には関係ない話に聞こえるかもしれません。でも読み進めると、「これは自社の採用に、そのまま使える思考法だ」と気づくはずです。ぜひ最後まで読んでください。
なぜ採用基準が曖昧だと「即戦力にならない人材」が入り続けるのか
📝 えだもんの現場視点
支援先の製造業の社長がこんなことを言っていました。「面接でしっかり受け答えできて、前職で似た仕事をしていたから採ったのに、半年でやめてしまった」と。話を聞くと、採用基準は「経験年数」だけ。なぜ自社に来たいのか、困難な場面でどう動くか、一切確認していませんでした。スキルだけで人を選ぶと、こういう結果になりがちです。
「感覚採用」が生み出す負のスパイラル
多くの中小企業の採用現場では、面接官が「なんとなく感じが良かった」「元気がありそうだった」「前職で似た業種にいた」という感覚的な理由で採用を決めています。経営者自身が面接官を兼ねているケースも多く、経営者の「好み」や「直感」が採用基準のすべてになっている会社も珍しくありません。
感覚採用には、一つの致命的な欠陥があります。それは「何を採用基準にしているか」が言語化されていないため、採用のたびに基準がブレるということです。基準がブレれば、入社後に「こんなはずじゃなかった」というミスマッチが生まれ、定着しない→また採用する→また感覚で選ぶ、という負のスパイラルに陥ります。
「スキル」を基準にすることの落とし穴
感覚採用から脱しようとすると、多くの経営者が次に「スキル採用」に走ります。「前職で営業経験3年以上」「簿記2級以上」「特定の資格保有者」といった条件をつけることで、採用基準を「客観化」しようとするのです。
しかしここにも落とし穴があります。本書が鋭く指摘するように、スキルは入社後に身につけることができますが、その人の「姿勢」や「思考の癖」はなかなか変えられません。即戦力として入社したスキル持ちの人材が、実は主体性がなく、言われたことしかやらない——そんな事態が起きるのはこのためです。
マッキンゼーが採用で本当に重視していたもの——「リーダーシップ」という採用基準
地頭でも論理的思考力でもなく「リーダーシップ」だった
本書の核心はタイトルに凝縮されています。「地頭より論理的思考力より大切なもの」——それが「リーダーシップ」です。
マッキンゼーは世界中から優秀な人材を集める組織ですから、「頭のいい人を採っているのでは?」と思う方も多いでしょう。しかし著者は明確に言います。「どれほど優秀な問題解決能力があっても、リーダーシップのない人材は採用しない」と。
ここで言う「リーダーシップ」は、肩書きや役職とは無関係です。「チームや組織を、目標に向けて動かす意志と行動力」のことを指しています。「自分がこの状況を変える」「私がやらなければ誰がやる」という当事者意識と言い換えてもいいでしょう。
「全員リーダーシップ」という革命的な発想
本書でえだもんが最も衝撃を受けたのが「全員リーダーシップ」という概念です。日本の多くの組織では「リーダーは一人」「上司が決めて、部下が動く」という構造が当たり前とされています。しかし著者はこう問いかけます——「なぜリーダーシップを持つのはリーダーだけでなければならないのか?」
マッキンゼーでは、新入社員であっても「自分がこのプロジェクトを動かす」という姿勢を求めます。役職は関係ない。どのポジションにいる人間も、リーダーシップを発揮して成果を出すことを期待されるのです。
この発想を中小企業に当てはめると、何かが変わります。「うちは社員が少ないから、リーダーを育てても意味がない」のではなく、「うちこそ、全員がリーダーシップを持って動いてほしい」という採用基準を設けることが、組織の底上げにつながるのです。
リーダーシップを見極める4つの要素
本書ではリーダーシップを構成する要素として、以下の4つが紹介されています。
- 知的能力(論理的思考・問題解決力):課題を構造化して解決策を導く力
- コミュニケーション力:相手を動かし、チームをまとめる力
- 人格・情熱(グリット):困難な状況でも諦めずに前進し続ける力
- 成長への意欲:フィードバックを受け入れ、自らを変え続ける力
この4要素は、マッキンゼーだけでなく、あらゆる組織で「欲しい人材」に共通する要素です。中小企業の採用基準として、そのまま転用することができます。
中小企業経営者が「採用基準」の設計で陥りがちな3つの誤解
誤解①「即戦力=スキルが高い人」
採用面接で「即戦力が欲しい」と言う経営者の9割は、「スキルがある人」を即戦力と定義しています。しかし本書が示す通り、本当の即戦力とは「この組織の中で最速で成果を出せる人」であり、それはスキルだけでは決まりません。
むしろ、スキルはあっても主体性がない人は、指示を待ち続けるだけで「即戦力」にはなりません。一方、スキルは未熟でもリーダーシップがある人は、自分で課題を見つけ、周囲を巻き込みながら成果を出していきます。
誤解②「うちの会社には優秀な人は来ない」
中小企業の経営者から最もよく聞く言葉が「うちには優秀な人材は来てくれない」というあきらめです。確かに大手と同じ土俵で戦えば、給与・福利厚生・知名度で負けることもあるでしょう。
しかし本書を読むと、別の視点が見えてきます。大企業では「リーダーシップを持っていても、発揮する機会が与えられない」と不満を感じている人材が多数います。そういった人材にとって、中小企業こそ「全員リーダーシップ」が発揮できる最高の環境です。採用基準を正しく言語化し、「うちではリーダーシップを持った人が活躍できる」と発信することが、優秀な人材を引き寄せることにつながります。
誤解③「人材育成は入社してから考えればいい」
「採用基準と育成は別の話」と思っている経営者も多いのですが、本書はこの誤解を鋭く覆します。採用基準の設計は、そのまま育成の設計図になるのです。
「どんな人材が欲しいか」を言語化すれば、「どんな人材に育てたいか」が明確になります。そしてその基準は、既存社員の評価軸にもなります。採用基準の設計は、会社全体の人材戦略の起点なのです。
えだもんが100社以上の支援現場で見てきた「採用がうまくいく会社」の共通点
📝 えだもんの現場視点
100社以上を見てきて気づいたのは、採用に強い会社は求人票の「書き方」が根本的に違うということです。条件の羅列ではなく、「こんな場面でこう動ける人に来てほしい」という具体的な姿勢の言葉が書かれている。それだけで「自分のことだ」と感じて応募してくる人の質が変わります。採用広告は会社のメッセージであり、採用基準の鏡です。
採用がうまくいく会社は「求める人物像」が社長の言葉で語れる
100社以上の経営者に伴走支援をしてきた経験の中で、採用がうまくいっている会社には明確な共通点があります。それは、社長が「うちが求める人物像」を自分の言葉で語れることです。
スペックではありません。「うちに来てほしいのは、自分で課題を見つけて、誰かに言われる前に動ける人」「失敗しても、そこから学んで次に活かせる人」——そういった「姿勢・思考・価値観」の言語化が、採用基準を機能させます。この言葉が採用広告のコピーになり、面接の質問になり、入社後の評価軸になるのです。
採用がうまくいかない会社は「条件」を並べるだけ
一方、採用がうまくいかない会社の求人票は、「必要資格:○○」「経験年数:○年以上」「給与:○万円〜」という条件の羅列だけです。その会社で働くことで何が得られるか、どんな姿勢を持った人に来てほしいか、が一切書かれていません。
こうした求人票は、「条件に合う人」は集めますが、「本当に欲しい人」は集まりません。なぜなら、本当に欲しい「リーダーシップを持った人材」は、条件よりも「この会社で自分は何ができるか」「自分の力を試せる環境か」を重視して会社を選ぶからです。
採用基準を「言語化」するための実践フレームワーク
ステップ1:「活躍している社員」から逆算する
採用基準の言語化に迷ったら、まず自社で活躍している社員・スタッフを3人思い浮かべてください。次に、その人たちに共通する「スキル以外の特徴」を書き出します。
- 困ったことが起きたとき、どう動くか?
- 指示がないとき、どう行動するか?
- チームメンバーに対して、どう接するか?
- 失敗したとき、どう対処するか?
この問いへの答えが、あなたの会社の「暗黙の採用基準」です。これを言語化するだけで、採用基準の精度は大きく上がります。
ステップ2:「リーダーシップ」を自社流に定義する
本書が示す「リーダーシップ」という採用基準を、自社の文脈に翻訳してみましょう。例えば、
- 建設業なら「現場で起きたトラブルに、上司に報告する前に自分で初動を考えて動ける人」
- 飲食業なら「お客様が不満を持っているサインに気づき、言われる前に対応できる人」
- 士業・コンサルなら「クライアントの言葉の背景にある課題を自分で仮説立てて提案できる人」
抽象的な「リーダーシップ」を、自社の仕事に即した具体的な行動イメージに落とし込むことで、面接での質問や評価基準として使えるものになります。
ステップ3:面接で「過去の行動」を深掘りする
採用基準が決まったら、次は面接での評価方法です。本書のアプローチを参考にすると、最も有効な面接手法は「過去の具体的な行動を聞くこと」です。
「あなたはリーダーシップがありますか?」という質問は無意味です。誰でも「あります」と答えます。代わりにこう聞きましょう。「前の職場で、誰かに言われていないのに自分で問題を見つけて動いた経験を教えてください。その時、何を考えて、どう動きましたか?」——この質問への答えに、その人の本当の姿勢が現れます。
この一冊が経営者の「人材観」を根本から変える理由
採用基準は「会社の未来」を決める経営判断である
本書を読んで最も強く感じたのは、採用基準の設計は、経営者が下す最重要の経営判断の一つだということです。どんな設備を買うか、どの市場に参入するかと同じレベルで、「誰を採るか」は会社の将来を左右します。
中小企業は、一人の採用が組織全体に与える影響が大企業より遥かに大きい。だからこそ、感覚と条件だけで採用することの危険性を認識し、「リーダーシップを採用基準に据える」というマッキンゼー流の思考法は、規模に関わらず有効です。
「採用」は「育成」と「組織文化」につながっている
本書のもう一つの重要なメッセージは、採用・育成・組織文化は三位一体だということです。リーダーシップを採用基準にすれば、入社後の育成でも「リーダーシップを伸ばす」という軸が生まれます。そしてリーダーシップを持った人材が増えれば、「全員が当事者意識を持って動く組織文化」が醸成されます。
採用基準の言語化は、組織変革の第一歩です。
えだもんからの総評——中小企業経営者こそ、今すぐ読むべき一冊
『採用基準』は、マッキンゼーという世界最高峰の組織の採用哲学を、日本のビジネスパーソン向けに丁寧に翻訳した希少な一冊です。「うちにはマッキンゼーの話は関係ない」と思わないでください。
むしろ、採用に失敗したときのダメージが最も大きい中小企業経営者にこそ、この本の思考法は刺さります。採用がうまくいかないと感じている経営者は、まず自社の採用基準を言語化することから始めてみてください。その起点として、これほど実践的な一冊はありません。
14年で2,000冊以上のビジネス書を読んできたえだもんが、「採用・人材育成」カテゴリで最初の一冊として経営者に薦めるとしたら、迷わずこの本を選びます。
まとめ——採用基準を変えれば、組織は変わる
📝 えだもんの現場視点
伴走支援の中で採用面接に同席させてもらったとき、「あなたは主体的に動けますか?」と聞いている社長を見て、思わず止めたことがあります。この質問には全員「はい」と答えます。代わりに「前の職場で、誰にも言われていないのに動いた経験を具体的に教えてください」と聞くよう提案しました。この一言で、面接の質と採用精度が劇的に変わった会社を何社も見ています。
『採用基準』から得られる最大の学びを3点に絞ると、以下の通りです。
- 採用基準は「スキル」より「リーダーシップ(姿勢・思考・当事者意識)」を軸にする
- 「全員リーダーシップ」という発想で、中小企業こそ採用基準を高く設定できる
- 採用基準の言語化は、育成・評価・組織文化の設計図になる
感覚採用から脱し、「本当に欲しい人材」を言語化する。その第一歩を、この一冊が後押ししてくれます。
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『採用基準 地頭より論理的思考力より大切なもの』(伊賀泰代)
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明日の一手
「採用基準」を変える旅は、今日の小さな一歩から始まります。まずは自社の現状を棚卸しするところから動き出しましょう。
- 今日中に、自社で「最も活躍している社員・スタッフ」を3人思い浮かべ、その人たちに共通する「スキル以外の特徴・行動・姿勢」をメモ帳に箇条書きで書き出してみましょう。これがあなたの会社の「本当の採用基準」の原石です。所要時間は15〜20分。
- 今週中に、現在使っている求人票や採用基準を見直してください。「スキル・経験・資格」の条件だけが並んでいないか確認し、「こんな場面でこう動ける人を求めている」という行動・姿勢の言葉を1〜2文追加してみましょう。次の採用面接では、「過去に自分で課題を見つけて動いた経験」を必ず聞く質問として加えてください。
- 1ヶ月後を目標に、「自社の採用基準シート」を1枚にまとめましょう。①求める人物像(姿勢・思考・価値観)、②活躍する社員の共通行動パターン、③面接で使う行動深掘り質問3つ、④入社後の育成の軸——この4項目を埋める作業が、採用・育成・組織文化を変える経営ツールになります。
この記事の根拠と執筆背景
執筆者について
枝元 宏隆(えだもん)。中小企業診断士。九州を中心に100社以上の中小企業経営者に伴走支援を実施。補助金・資金繰り・組織づくり・事業承継が専門領域。14年でビジネス書2,000冊超を読破し、選書メディア「本で解く」(hondetoku.jp)を運営。レフティ合同会社 代表。
執筆・更新日
執筆: 2026-06-11 / 最終更新: 2026-06-11

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